慢性腎臓病(CKD)の有病率は成人の10%以上と想定されている。さらに,自己免疫疾患や糸球体腎炎などは若年女性にも多くみられ,腎臓病を持ちながら妊娠,出産,挙児を希望する人は少なくない。日本腎臓学会腎疾患患者の妊娠:診療の手引き改訂委員会(委員長:成田一衛)から,日本産科婦人科学会,日本小児科学会等の協力を得て表記ガイドラインが発刊された。前版発刊以降,CKDステージ分類構築,意思決定に際しての基本的な考え方の変化,使用薬剤の変遷等があり,これらを反映したものとなっている。
「妊娠が腎臓に及ぼす生理的な影響」から始まり,「CKD患者が妊娠を希望した場合のリスク評価」「CKD患者の妊娠管理」「妊娠中に使用できる薬物」「産褥期の注意点」について,代表的なクリニカルクエスチョン(CQ)を立てて,エビデンスに基づき,推奨の強さ(グレード)が付されている。
たとえば,「軽度から中等度の腎機能障害患者の妊娠合併症リスクは高いか?」というCQに対して,GFR区分G1,G2であっても妊娠合併症リスクは高い(グレード1B)と述べられている。
糖尿病患者が増加しており,糖尿病患者が妊娠に遭遇する機会も増えている。糖尿病性腎症患者の妊娠合併症リスクについても触れられており,妊娠前の治療・管理の必要性(計画妊娠)が述べられている。妊娠中に使用できる降圧薬,免疫抑制薬についても,近年のエビデンスに基づき改訂が加えられている。本ガイドラインに基づき,適切な診療が普及することで,腎疾患患者の妊娠に関する不安が軽減され,安全な妊娠,出産が実現できることを願っている。
【解説】
長洲 一 川崎医科大学腎臓・高血圧内科講師