第Ⅷ因子の欠乏・低下に起因する血友病Aは,最も頻度が高い先天性血液凝固障害であり,幼少期より様々な出血症状を反復する。治療の原則は欠乏する第Ⅷ因子の補充であり,予防的補充療法を行うと出血頻度は激減し,QOLも向上するものの,頻回の経静脈投与は患者に大きな負担となる。さらに,抗体(インヒビター)が発生すると,以降の止血効果が激減~消失する。インヒビターが高値である場合,バイパス止血療法製剤(活性化第Ⅶ因子,あるいは活性化プロトロンビン複合体製剤)が投与されるが,止血効果は劣る。
emicizumabは,一方が活性型第Ⅸ因子,他方が第Ⅹ因子を認識するバイスペシフィック抗体であり,第Ⅷ因子と同様に第Ⅹ因子を活性化させる作用を有している。emicizumabの週1回の皮下投与により,第Ⅷ因子に対するインヒビターの有無にかかわらず,血友病A患者の出血回数が激減することが奈良県立医科大学小児科の嶋 緑倫教授らにより報告された1)。
プレスリリースによると,インヒビターを有する血友病A患者を対象とした,経過観察群と比較する無作為比較試験においても,emicizumabは主要評価項目である出血の予防に優れている。欠乏したものを補充するという,従来の血友病の治療概念を根本的に変革する可能性を有する薬剤の開発が,最終段階にある。
【文献】
1) Shima M, et al:N Engl J Med. 2016;374(21): 2044-53.
【解説】
関根雅明*1,下田和哉*2 *1宮崎大学内科学講座消化器血液学 *2同教授