現行のロタウイルスワクチン接種直後には,わずかに腸重積発症のリスクが増加する(約1~6人/10万接種児)
腸重積発症の相対リスクの大きさは諸外国と変わらないが,ドース当たりの腸重積症の副反応報告の絶対数はわが国の高い乳児腸重積症の自然発生率を反映して多い傾向にある
定期接種化は社会全体のベネフィットと個人が負うリスクとを勘案して決定すべきであり,このため,より安全な接種プログラムをめざして接種週齢の違いによる相対リスクの違いや人口寄与リスクの把握が必要である
わが国で定期接種化が検討されているロタウイルスワクチン(ロタリックスⓇ,ロタテックⓇ)は,世界77カ国の定期接種に導入され,米国,オーストラリア,英国などではロタウイルス胃腸炎による疾病負担の激減が報告されている。一方,かつてロタウイルスワクチン(ロタシールド1397904493)が腸重積症との関係から販売中止となった歴史的な経緯があり,どのロタウイルスワクチンに対しても副反応としての腸重積症リスクへの懸念は強い。
ワクチンに対しては効果と副反応の両面からの評価が不可欠である。本稿では,ロタウイルスワクチンの負の側面である腸重積発症のリスクに関する論点を整理してエビデンスを示し,腸重積症のリスクとその評価に関する筆者の見解を述べる。
腸重積症は,腸管の一部が隣接する遠位側の腸管の中に陥入する病態で,小児急性腹症の1つである。発症後早期に治療すれば予後良好であるが,診断の遅れなどによる整復困難例では絞扼性の腸閉塞から消化管穿孔やショックが起こる。発症のピークは生後4~9カ月であり,発症率は国や地域により異なる(図1)。副反応としての腸重積症の評価にあたっては,バックグラウンドとなる自然発生する腸重積症の把握が必要であり,このための国際的な診断基準としてブライトン基準(文末Q&A参照)が作成されている。
わが国の腸重積発症率調査は,秋田県大館市の25年間にわたる(1978~2002年)後方視的研究が最初で,1歳未満人口10万人当たり185人であった1)。当時ブライトン基準はなかったが,この研究での症例定義はブライトン基準レベル1に相当する(バリウム造影による確診例)1)。
さらに筆者らは,秋田県内全病院を対象にブライトン基準レベル1を症例定義とした10年間(2001~2010年)にわたる後方視的研究により,腸重積発症率が10万人当たり158(95%CI;131~188)人であることを明らかにした2)。この調査ではワクチンの接種時期を念頭に,3カ月未満児の発症率が10万人当たり10人と非常に小さく,直後の3~5カ月児では15倍に増加することを明らかにした(図2)。
また,Takeuchiら3)による包括医療費支払制度(diagnostic procedure combination:DPC)を基にした全国調査(2007~2008年)やMiuraら4)による診療請求を基にした全国調査(2005~2011年)でも,1歳未満の腸重積発症率は10万人当たりそれぞれ,179~190人および144人であったと報告されおり,日本の発症率は,近隣の韓国やベトナムとともに,欧米に比べて高いものと思われる。
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