「臨床研究を通じて医療者に元気になってもらい、医療を元気にしてほしい」という著者の熱い思いが伝わってくる好著です。
本誌の読者は実地医家が多いため、臨床研究と聞くと自分には関係ないことと受け取られる向きがあるかもしれません。実は、これはとんでもない誤解であることは、本書を少し読むだけでよくわかります。
表紙を開けると、上巻の扉にはNoel教授の「測定しなければ改善はない」、下巻の扉には戸塚洋二氏の「伝わらなければ科学でない」のメッセージが寄せられています。これらのメッセージは臨床研究の本質を表していますが、第1章ともう少し詳しくは第3章を読むだけでなぜ本質なのかが理解できるでしょう。
何となく疑問だと感じていること、医療を行う上でうまくいかないと感じていることなど、自分の頭の中だけでモヤモヤと考えていることを誰にでもできる一定のやり方で言語化し、共有できる形にする、それを測定して改善につなげようとする一連の行為こそが、臨床研究の本質的な意義なのです。
言葉を深化させて、測定するという考え方に慣れると、巷にあふれている「○○は健康に良い」という漠然とした言明を聞いても、○○の定義は? 健康とはどのように定義し測定するのか? 良いの意味は? 測定の方法は? と批判的に受け取ることができるようになります。これは、情報リテラシーを高めるのと同時に臨床能力の向上に他なりません。
また、臨床研究に携わることは、概念を共有した上でPDCA(Plan、Do、Check、Action)を回すチーム作業を行う訓練になります。臨床研究の考え方と実践のスキルは、患者の価値が多様化し、医療者も異なる価値観を持った多職種からなるチームで医療を行う時代に、臨床診療、コミュニケーション、マネジメントなどすべてに通底する現代のリベラル・アーツ(医療人が持つべき実践的、基本的な知識・スキル)といえるでしょう。
つまり、優秀な臨床研究者は、優秀な臨床医、チームメイトになるポテンシャルを持っているといえます。こんなトレーニングを重ねてきた部下が欲しいと思うのは私だけでしょうか。
以上、臨床家、管理者の目線から見た臨床研究ノススメでした。ぜひ、本書を一読して臨床研究が、これからの日本の医療を動かす力になることを実感していただきたいと思います。