ノロウイルスには施設内感染伝播を起こしやすい多くの特徴があり,対策の第一歩はこれらを理解することである
特に流行期には多くの無症候性感染例があり,「ウイルスを持っていない」ことを信頼するよりも,持っていることを想定して対応を行うことが肝要である
アウトブレイク対応は,迅速探知と対応がすべてである
ノロウイルス感染症は,通年性に発生し,特に冬季には毎シーズン大きな流行がみられる,きわめて普遍的な感染症である。医療施設は当然のことながら地域に存在するため,すべからく地域の感染症流行の影響を受け,毎年400~500件の施設内アウトブレイクの報告がある。後述するようにノロウイルスには施設内感染伝播のリスクを高める特有のウイルス学的,疫学的状況が存在するため,その対策は簡単ではなく,やり出せば切りのない面がある。ノロウイルスの特徴を理解すること,基本に忠実に行うこと,そしてバランス感覚が必要である。
ノロウイルスのウイルス学的特徴については他稿で詳細に述べられているが,院内感染対策に際しては,①ヒトが唯一のreservoirであり,②エンベロープを持たない,遺伝子的に非常に多様な一本鎖RNAウイルスで,③環境中で安定し,④遺伝子の変異によりヒトの免疫を逃れるように抗原性が変わっていくという特徴がある1)。
カリシウイルス科ノロウイルス属のウイルスであり,この科にはNorovirus, Sapovirus,Lagovirus,Vesivirus,Nebovirusが属するが,ヒトに病原性を持つのはNorovirus(ノロウイルス)とSapovirus(サポウイルス)のみである。また,ノロウイルスはVP1の遺伝子により,遺伝子群(genogroup)Ⅰ~Ⅴにわけられるが,ヒトに病原性を持つのは,Ⅰ,Ⅱ,Ⅳであり,それぞれが,9種類,19種類,1種類の遺伝子型(genotype)を持つため,全体で29の遺伝子型がある。ヒトに感染するノロウイルスは,通常はヒトを唯一の宿主としており,すべての感染源はヒトに発し,自然界(環境)を循環し,ヒトに戻る。
ノロウイルスは,脂質二重層のエンベロープがないため,アルコールには比較的耐性であり,消毒薬としては次亜塩素酸ナトリウムが推奨される。環境においても冷凍や60℃までの熱には安定で,環境表面においても数週間生存する。消毒薬の効果については,いろいろな報告があるが,最近の報告ではアルコールはほとんど効果がなく,次亜塩素酸についても30秒の接触では500ppm以上の濃度がないと一般的有効基準である103以上の減少がみられないとされている。また米国では濃度は1000~5000ppmとするとされているが,有機物が存在すると5000ppmでも十分な効果が期待できないとの報告もあり,まず十分有機物を取り除くことが重要とされている2)。
また,特に遺伝子群Ⅱの遺伝子型4のウイルス(GⅡ.4)は,インフルエンザウイルスのように,ヒトの免疫から逃れるようにVP1のP2 domainが変化するepochal evolutionのパターンをとり,これまでのところ,2~4年で新たなstrainが出現している。もちろん,これが必ずしもepidemic strainになるとは限らない。
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