診療場面や窓口など医療機関運営においてどこででも起こりうる患者からのクレーム。SNSの急速な普及で、現場での対応のまずさが医療機関の存続さえも左右しかねない時代になっており、各医療機関は対策を迫られている。このほど大江和郎氏(東京女子医科大学附属成人医学センター元事務長)が上梓した『もつれない患者との会話術〈第2版〉』では、実際に起こったクレーム事例を基に、トラブルを回避する患者対応について紹介している。本書からその内容の一部を特別に公開する。
院内クレームは主に、①患者側の問題、②医療機関側の問題、③法律など制度的問題—が要因となって発生する。中でも医療機関の頭を悩ませているのは、①の患者側の問題だ。この点について、大学病院の事務長として長年患者対応に従事してきた大江和郎氏は、「消費者が一般のサービスを受けるのと同じようなふるまいをするようになってきている」と指摘する。かつて医療機関では「さん」付けで患者を呼んでいたが、厚生労働省が2001年に国立病院・療養所における医療の質を高める一環として「様」付けで呼ぶことを提案し、多くの医療機関がこれに倣った結果、“お客様意識”が醸成され、「最少の負担で最大のサービスを求めるようになった」(大江氏)ことが影響しているとみられる。
また、見逃せないのは患者自身の気質の傾向が変化している点だ。患者が医学や医療保険制度に関する知識を容易に入手できる環境になったことに加え、「自己主張を曲げない」「常識に欠ける」「言わないと損と思っている」など、明らかにクレーマー気質の人が増えているという実感をお持ちの読者は多いだろう。
さらに今後は、認知症の高齢者や高度経済成長を牽引してきた自負を持つ団塊世代、これまでの常識がなかなか通じないゆとり世代の患者などが増加する。今後はますます、クレーム対応が医療機関にとって重要な課題となる。