(埼玉県 I)
マイナンバー制度により,事業者や納税者は確定申告書に番号記載を求められたり,今まで必要なかった本人確認書類を求められたりと,負担が増えています。政府は,「個人番号カード」を取得すれば本人確認の手間が軽減されると言っていますが,制度によって増えた手間が軽減されるのではメリットとは言えません。
個人番号カードの発行が開始されたのは2016年1月ですが,暗証番号を登録する際,地方公共団体情報システム機構(J-LIS)にシステム障害があり,発行できないという事態が頻発し,その後も発行に伴うトラブルが起きています。また総務省は,裏面にあるQRコードを他者がスマートフォンで読み取るとマイナンバーが簡単にわかってしまう,またはQRコードをインターネット上に掲載すると他者に個人番号を知られてしまう恐れがあると注意喚起しています。
個人番号カードを使い,個人情報をインターネットから確認できる専用サイト「マイナポータル」の本格的な運用開始時期も,準備不足とのことで2017年11月からと,予定より4カ月遅れました。
政府は,個人番号カードの普及を図るため,個人番号カードのICチップを民間に開放し,民間企業のポイントカードや会員証,社員証や学生証,さらにはクレジットカード等への紐付けも進めていくとしています。また,公的図書館の貸出カードや,2020年に開催される東京五輪のチケット購入の際の本人確認にもカードの活用を検討しています。厚生労働省は,2018年度に個人番号カードを健康保険証として利用できるようにするため,2017年度予算にシステム構築関連予算243億円を計上しています。
政府は,幅広くカードを活用しても,ICチップを使うので特定個人情報の管理にリスクはないと言っていますが,個人番号の記載されたカードを気軽に持ち歩いて,落としたり,机に置き忘れたりすれば,簡単に情報を見られ流出させられてしまうことになります。
さらに,政府が推進するカジノ構想では,ギャンブル依存症患者の入場を規制する仕組みとして個人番号を利用する案が浮上しています。既往歴をマイナンバーに紐付け,カジノに利用することは,特定個人情報の重要性を軽視し,マイナンバー法の根幹を揺るがすものです。
自治体でも,総務省の主導のもとに「個人番号カード」による住民票等のコンビニ交付を進めていますが,プライバシー保護の視点が欠落していて番号情報漏えいなどの事故が発生した場合,民事責任を事業者側と自治体側のどちらが負うのか不明です。
個人番号の幅広い活用は,番号を管理する事業者に厳しい体制を求めているマイナンバー制度の趣旨に反しますし,個人番号に触れる機会が増える民間企業等からどれだけ情報の流出を防げるか疑問です。個人番号の利用機会が増えれば増えるほど,個人番号の情報漏えいや民間企業等による不正利用のリスクは高まります。
米国には社会保障番号という共通番号制度がありますが,共通番号を悪用した成りすまし犯罪が年間900万件以上発生しています。そもそも個人番号で国民の個人情報を紐付け監視し,国民の所在確認をする仕組みは,監視社会につながるとも言えましょう。
「個人番号カード」を利用した取り組み構想はいろいろ述べられていますが,実現しているのはわずかです。2016年12月27日までに発行された個人番号カードは982万枚(約8%)と,総務省が導入時に掲げた「1年で3000万枚」という目標とはかけ離れた数字です。「個人番号カード」を持つことが不利益になるかは各人の判断になります。「個人番号カード」はいつでも取得できます。「住基カード」の廃止例もありますので,慎重に対応するほうがよいと考えます。
【参考】
▶ プライバシー・インターナショナル・ジャパン(PIJ): CNNニューズ. [http://www.pij-web.net/]
【回答者】
益子良一 税理士法人コンフィアンス代表社員税理士/専修大学法学部講師