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【OPINION】なぜ警察取扱死体数が減ったのか─精度の高い死因究明制度の構築に向けて

No.4697 (2014年05月03日発行) P.14

石原憲治 (千葉大法医学教室特任研究員、京都府立医大法医学教室特任教授)

武市尚子 (千葉大法医学教室客員准教授、弁護士)

岩瀬博太郎 (千葉大法医学教室教授、東大法医学講座教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-04-05

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  • 警察取扱死体数が初めて減少

    先日、昨年(2013年)の司法解剖や行政解剖などの統計「都道府県別死体取扱状況(2013年中)」が、警察庁から公表された。これらの数字は毎年公表されているが、警察庁刑事局が関与した死体に限定した統計である。その他に、交通関係、検察、海上保安庁、自衛隊がそれぞれ独自に司法解剖の嘱託をしているので、わが国の法医解剖数の合計は誰も知らないというのが実情である(表は筆者が警察庁公表資料に基づき、増減の著しい、あるいは特徴的な都道府県を抜粋し、前年と比較したもの)。
    昨年は「警察取扱死体」がかなり減少した。2003年に13万3922体だった警察取扱死体は増加し続け、一昨年には17万3833体と最高数を記録したが、昨年は減少し、16万9047体(前年比2.8%減)だった。死亡者数全体は発表されていないが、厚生労働省から発表された数字(人口動態統計速報)を見ると、1.0%程度増加しており、独居老人の増加などの社会的条件が変化したとは思えない。したがって、この現象は従来届け出ていたものが届け出されなくなったと見るのが妥当だろう。


    24時間ルールの解釈─犯罪見逃しの可能性は

    そこで、届出を減らす要因を考えてみた。その要因と思われる事実が2つある。いずれも厚生労働省医政局医事課が関係しているもので、第一は、2012年8月31日に医事課長名で出された「医師法第20条ただし書の適切な運用について」との通知であり、第二は、同年10月26日、医療事故調査制度の検討会席上での医事課長発言1)である。
    前者の通知については次のとおりである。医師法第20条とは、「医師は、自ら診察しないで診断書を交付してはならない」等の規定であり、そのただし書として、「但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない」と付加している。この規定は、死後24時間経過した場合、死亡診断書を交付できないという解釈の余地を残したため、厚労省医政局医事課は、「24時間経過した場合であっても、死亡後改めて診察を行い、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には、死亡診断書を交付することができる」との通知を出したのである。さらに、「生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できない場合には、死体の検案を行うこととなる。この場合において、死体に異状があると認められる場合には、警察署へ届け出なければならない」としている。
    この通知が届出を減少させたとすると、どのような可能性が考えられるだろうか。仮に、死後24時間経過すると死亡診断書を書けないと考えた場合でも、前にその患者を診療していた医師であれば、死体を検案し、生前に診療していた傷病に関連する死亡と判定し、異状がなければ死体検案書を交付するのであるから、警察への届出はせずに終わるはずである。しかし、次のような場合が考えられるかもしれない。外傷を負って通院している患者が死亡したとする。生前に患者を診療した医師が、その傷害との関連で死亡したと考えた場合、どうなるだろうか。本来なら、原死因が外傷である場合、それが法医学的な異状と考えられ、警察に届け出なければならない。しかし、こうした場合、死亡診断書で済ませてしまう臨床医はいないだろうか。傷害の時点で警察が関与していない場合、届け出られず、警察が把握せずに終わる可能性がある。この場合、虐待などの犯罪や事故の見逃しに通じる場合もあるだろう。
    さらに、この通知自体、危険性をはらんでいる。確かに、24時間を超えた場合でも、明らかに以前から確定診断していた死因であるなら、死亡診断書で済ましても問題ないだろう。ただし、これが1カ月を超えるような場合はどうか。臨床医が、遺体の外表で診断し、本当にその死因が確定できるか、という点、さらには、全く別の原因で死亡した可能性を完全に排除できるのか、という点は疑問である。特に、病院以外の施設内や自宅での死亡の場合、何かの病気に罹っていたとしても、高齢者や障害者に対する虐待など、犯罪を疑うべき事案も多い。こうした点を考慮するなら、通知の中で、一定程度届出を促すための注意があってしかるべきではないだろうか。

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