以前より,突発性難聴などの内耳疾患の治療法として,ステロイドの全身投与が広く行われてきた。近年,ステロイド鼓室内投与療法が全身投与と同等の治療成績を示すことが報告され,注目されている1)。鼓室内投与は注射針を用いて鼓膜を穿刺し,鼓室内に直接薬剤を注入することで行う。鼓室内の薬剤は正円窓膜を通過して内耳に到達するため,一定時間,鼓室より薬剤が流出しないように患者を仰臥位で安静にしておく必要がある。点滴静注と比べ専門的手技を必要とするが,患者への侵襲はほとんどなく,耳鼻咽喉科外来でも施行可能な治療である。
鼓室内に投与されたステロイドが全身投与と比較して高濃度に内耳に到達することは,動物実験でも確認されている。ステロイドの全身投与は,易感染性,高血糖,消化管潰瘍,骨粗鬆症などの副作用が問題となるが,鼓室内投与を行うことでこれらの副作用の可能性はきわめて低くなるため,糖尿病などの合併症を有する内耳疾患患者でも積極的に行われる。また,ステロイド以外でもゲンタマイシンやガドリニウムなど多くの種類の物質が,正円窓膜を透過して内耳に移行することが明らかになっており,治療や検査などに応用されている2)。
【文献】
1) Rauch SD, et al:JAMA. 2011;305(20):2071-9.
2) 橋本 誠, 他:ENTONI. 2011;132:50-4.
【解説】
菅原一真*1,山下裕司*2 *1山口大学耳鼻咽喉科准教授 *2同教授