胸痛を訴えて受診する患者は多いが,その性状は多岐にわたり,また致死的な疾患が原因の場合もあるため,救急外来診療を行う者にとってはストレスとなりやすい。胸痛に対する診療の最重要点は,その胸痛が致死的となりうる疾患による症状かどうか,特に急性冠症候群かを見きわめることである。
胸痛を引き起こす疾患を鑑別診断として想起する場合,臓器別に考えるとわかりやすい。胸痛を起こしうる臓器としては,心臓,大血管,肺,食道,胃,縦隔,胸膜,腹腔内臓器が考えられ,病歴を聴取する際には,原因臓器を想定しながら行うとよい。その上で,致命的となりうる疾患として代表的なものは,急性冠症候群,急性大動脈解離,肺血栓塞栓症が代表的であり,また,緊張性気胸,心タンポナーデ,縦隔炎(食道破裂を含む)等も致命的となりうることに注意する。
急性冠症候群:喫煙,脂質異常症などが危険因子であり,痛みの性状,部位,持続時間,発症様式(突然発症か)などを聴取する。
急性大動脈解離:背部痛の有無,疼痛部位の移動などを聴取する。
肺血栓塞栓症:血栓性素因の有無,深部静脈血栓症のリスクとなるような病歴,既往,危険因子などを聴取する。
バイタルサインが安定していない場合は,きわめて緊急度が高いと認識すべきである。上述の致命的となりうる疾患(急性冠症候群,急性大動脈解離,肺血栓塞栓症)に対する緊急治療の用意,あるいは施行できる医療機関への転送が必要となる。
最も重要な急性冠症候群に特異的な身体所見は少ないが,その他の致命的となりうる疾患に特徴的な身体所見を確認することが重要である。
急性冠症候群:痛みよりも圧迫感が強い。
急性大動脈解離:背部痛の有無,疼痛部位の移動,頸静脈怒張,血圧の左右差,心雑音(特に大動脈弁逆流)を確認する。
肺血栓塞栓症:失神の有無,頻呼吸,呼吸困難,頻脈,咳,喀血,深部静脈血栓症を疑う所見があるかを確認する。
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