運動麻痺は運動するための神経経路,すなわち脳内では大脳皮質の運動野から始まり,放線冠や内包後脚を通り,延髄内側を経て延髄下部で反対側に移り,脊髄から末梢神経に連絡し,筋肉に至る経路に障害をきたし発症する。この経路のどこで,何が起きているかを診断し,それに対する治療を行っていく。何が起きているかについては血管障害,感染,炎症,腫瘍,変性,外傷,代謝異常といった傷病の機序を考え,診断し対応する。「time is brain」と言うように,脳血管障害をはじめとする早急に治療を開始しなければいけない疾患も多く,時間を意識しながら診療を進めることも重要である。
急性発症なのか,慢性進行なのかといった情報や,麻痺をきたしているのが顔面,四肢のうちのどこなのかをしっかり聴取し診断の一助にする。急性発症の場合,脳血管障害を意識して,血栓溶解療法や血管内治療などの血行再建治療の適応を見逃さないことが重要である。数年にわたり進行するような麻痺は,変性疾患の可能性も考える。
バイタルサインから気道,呼吸循環の評価を行い,必要なら介入して安定化させる。
身体診察では神経診察を行い,ある程度障害の部位を推定する。典型的なものは以下のような所見を示す。
顔面を含めた片側の麻痺なら,逆側の脳内の病変が考えられる。失語などの皮質症状を伴うことも多い。
顔面麻痺がない四肢麻痺なら上部脊髄を,両下肢麻痺なら下部脊髄を疑う。特に皮膚分節に沿った感覚障害を伴う運動麻痺は,脊髄での病変を考える。
末梢神経の分布に従った麻痺や感覚障害を示す(単神経障害)。炎症によるような多発神経障害の場合は,四肢遠位優位の脱力を示し,深部腱反射の低下,消失をきたしうる。
近位部優位の脱力を示しやすい。
残り1,286文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する