体温上昇を主訴の一部として来院する患者は多いが,その大部分は感染症である。多くの感染症患者の中から,「敗血症(sepsis)」の患者を早期に発見することが重要である。
「発熱(fever)」は,感染や血管障害,自己免疫反応,外傷などの侵襲に対する免疫応答の結果,体温調節中枢の設定温度(セットポイント)が引き上げられたことによって生じた体温上昇であり,深部体温が40℃を超えることは稀である。それを超える場合は,体温調節が破綻した状態である可能性が高い。「高体温(hyperthermia)」による体温上昇には上限がなく,中枢神経障害や肝・腎障害,凝固障害をきたして致死的となる。発熱では深部体温がセットポイントに到達するまでの間に悪寒戦慄を生じるのが特徴であるが,もともと発熱していた患者に高体温が合併することもあり,両者の鑑別は必ずしも容易ではない。
体温上昇だけを主訴として来院することは多くはないはずであり,随伴症状を抽出することが鍵となる。発症様式と随伴症状に加え,既往症,内服薬,アレルギー歴,ワクチン接種歴,旅行歴,食生活,ペットの有無,家族の状況や性生活などを聴取する。
体温は古典的バイタルサインのひとつではあるが,緊急性・重篤性の判断に際しては他のバイタルサインとの関連で評価する。
呼吸数や心拍数は体温上昇に伴って上昇する。体温上昇に見合った心拍数の上昇がない場合,比較的徐脈を考慮する。呼吸数や心拍数の著しい逸脱は,呼吸不全や循環不全の存在を示唆する。
体温上昇に血圧低下が合併している場合,循環不全を疑う。
発熱による体温上昇で意識の変容をきたすことはあるが,意識障害が遷延することは稀であり,脳血管障害,頭部外傷やてんかんのほか,中枢神経系の感染症を考慮する。
細菌感染症や外傷に起因する発熱では,感染巣や外傷部位に局所的な強い痛みを伴っていることが多い。ウイルス感染や自己免疫反応による発熱,薬剤による高体温では,体温上昇のほかは皮疹などの非特異的症状しか示さないこともある。
気道狭窄,呼吸音,副雑音,皮下気腫,経静脈の怒張,心雑音,髄膜刺激症状,腹膜刺激症状をチェックし,体温上昇の原因となる感染巣を探索する目的で,頭の先からつま先まで診察する。
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