喫煙歴のない女性で,吸入ステロイドと長時間作用性のβ2刺激薬でコントロールされていた。数日前に風邪をひいてから労作時などに少しウィーズが出現したが,夜間には呼吸困難や喘鳴はない。酸素飽和度の低下もない。発作かもしれないが,特に苦しくもないので予約通りに6日後の診察日に受診した。聴診器を当てると図1(サウンドスペクトログラム)のような音が聴こえた。
前回に続き今回も,肺の聴診はすぐに治療方針まで決まる優れたバイオマーカー,という代表例をお示しします。
まず図1の音を聴いてみましょう。ひゅ~と表現されるような連続性ラ音(ウィーズ)が聴こえます。ウィーズの基音の線は1本で前回のポリフォニック・ウィーズと違って澄んだ音です。呼吸音にも気を付けて聴いてみると吸気音,呼気音とも大きくはっきりと聴こえます。つまり,気管支音化です。ウィーズが聴こえるときはたいてい気管支音化しています。
音が濁っていないモノフォニック・ウィーズでは気道の狭窄部位は1箇所と推定できます。吸気と呼気の音源が別だとしても2箇所です。モノフォニック・ウィーズが聴こえるほとんどの例では,気管支拡張薬の吸入だけでウィーズは消退します。また,モノフォニック・ウィーズでは,あまり息苦しさを感じない喘息患者も多いです。感染や吸入薬のアドヒアランス低下など悪化(ウィーズ出現)の原因を考えて対応します。
モノフォニック・ウィーズでも周波数(ピッチ)が変動すれば喘息です。しかし音の強弱かピッチの変動かは聴いただけでは分かりません。ウィーズが2週間を超えれば,息苦しさを伴っていてもいなくても,器質的な気道狭窄の可能性もあるので,画像を含めた精査が必要です。気管支結核や肺癌などによる固定性狭窄のウィーズも喘息治療で少しは改善します。ウィーズに騙されないようにしましょう。