喫煙歴なし。X月10日頃より咳嗽・喀痰を自覚し,呼吸困難感も悪化。黄緑色の喀痰もあったが,近医での治療で咳嗽は少し軽減した。20日頃より呼吸困難と食欲低下があり救急受診。SpO2 95%(室内気)だが,KL-6/LDH上昇および胸部画像の増悪を認め入院となった。ばち指はなし。チアノーゼなし。努力呼吸あり。呼吸で鎖骨は上下するが胸鎖乳突筋の動きは目立たず,斜角筋が主に働いている(間質性肺炎のような肺が硬い疾患による努力呼吸の特徴)。
クラックルを聴けば,胸部X線で異常のある疾患だろうと考えます。図1は,これだけでファイン・クラックル,間質性肺炎と言えるような音です。本症例では,左肺底部でファイン・クラックルを強く聴取しました。胸部X線(図2)は間質性肺炎を示唆します。CT像(図3)からは,通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)よりも非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP)を考えます。ばち指もなく,やはりUIPではなさそうです。
クラックルがあっても蜂窩肺があるとは限りません。逆に言えば,間質性肺炎であればUIPではなくても(=蜂窩肺はなくても)ファイン・クラックルは聴かれます2)。
ファイン・クラックルは,通常は左右対称で肺底部に強く聴かれます。左右差がある場合は感染性の肺炎も考えますが,本症例のように,明らかに高調な成分がある揃った特徴的なファイン・クラックルが聴かれれば,まず間質性肺炎を考えます。間質性肺炎の原因として,自己抗体を広範に調べましたが,すべて陰性であったため,膠原病関連ではなさそうです。トリの飼育や羽毛布団などトリ製品の使用もなく,薬剤性でもなさそうなので,原因不明で特発性のNSIPと考えています。
ファイン・クラックルは体位の影響も受けやすく,心臓と比べて相対的に低い位置で増強します3)。片側でしか聴かれない,肺底部以外で強い,もっとバリバリと不揃いで粗い感じ,などがあれば間質性肺炎以外の疾患も考えましょう。
【文献】
1)Tsuchiya M, et al:Sound spectrographic characteristics of fine and coarse crackles. 39th ILSA(international lung sounds association)conference. 2014 Boston.
2)Jacobo S, et al:Medicine. 2016;95:e2573.
3)Tsuchiya M, et al:The effect of body position on the lung sounds intensity in patients with interstitial pneumonia. 41st ILSA conference. 2016 Tokyo.
※ILSAの抄録は肺音(呼吸音)研究会のホームページから無料で閲覧可能。