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第2回:洞徐脈/Sinus bradycardia

登録日:
2022-04-13
最終更新日:
2023-03-17

執筆:Dr.ヒロ|杉山裕章

心拍数60/分未満の洞調律

まず何と言っても「洞徐脈」の最大の特徴は脈が遅いこと。洞レートが「60/分未満」というのが最も一般的な定義です。

洞性P波の条件(Ⅰ,Ⅱ,aVF,V3~V6:陽性,aVR:陰性)を満たし(A),QRS波同士の距離(R-R間隔)はおおむね整(レギュラー)で,太枠四角(5×5mm)で5つ以上離れているはずです(B)。肢誘導・胸部誘導5秒ずつの標準様式なら,全体でQRS波が10個ないという状態(C)で,実際,サンプル心電図(図1)でもQRS波は8個しかありません。

“洞性徐脈”と呼ぶ人がいますが,あまり推奨できない表現ですので,皆さんは使用を控えて欲しいです。正式な用語集には「性」の字はなく,「sinus」の日本語訳には「洞」の1字が割り当てられています。

それともう1つ,細かいようですが,「以下」ではなくて「未満」が定義になります。こればっかりは約束なので,そう覚えるしかありません。我々日本人がよく混乱する点ですが,「less than」の場合は“未満”と訳されますよね。つまり,細かいことを言えば,「心拍数60/分」ならば,他の条件を満足しても「洞徐脈」には該当しないわけです。“意地悪問答”のようにも思えますが,こればっかりは決まり事なので…。

さらに,カットオフ値が「50/分」ではないか,という人もいるでしょう。実際,「50/分未満」を定義に据えている欧米ステートメントもありますが,実はそちらのほうが稀です1)



古くから“正常な”洞結節レートは「60~100/分」とされてきましたが,「59/分」の時点で 「洞徐脈」だったら,診断の“乱発”傾向となること必然です。約8万人の健常成人データにおける99パーセンタイル値は「男性:43~102/分」,「女性:47~103/分」でした2)。実際,ボク自身も「心拍数57/分の洞徐脈」などと記載することに若干の抵抗を感じるため,カルテ等では「Sinus(bradycardia)57bpm」のように表記するようにしています。皆さんはどうしていますか?個人的には,“稀”と述べた「50/分未満」の意見を支持しますが,臨床的には,さらにマイナス5した「45/分」くらいが真に意義のある「洞徐脈」のカットオフ値ではないでしょうか。

「洞徐脈」を見たとき,徐脈をきたしうる器質的心疾患や甲状腺機能低下症なども念頭におきながら,抗不整脈薬(β遮断薬も含む)の服用もチェックしましょう。また,周知のように一部の運動選手は平常時からかなりの徐拍傾向を示しますので,スポーツ歴なども聴取しましょう。

徐脈に関連した脳虚血(めまい・ふらつき・失神)や心不全(息切れ・浮腫)を示唆する症状がある場合には,病的な洞結節機能低下(洞不全症候群)として問題視すべきです。

【文献】

1)Kadish AH, et al:J Am Coll Cardiol. 2001; 38:2091-100.

2)Mason JW, et al:J Electrocardiol. 2007; 40:228-34.

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