□特発性膜性腎症(以下,膜性腎症)とは,中高年で発症するネフローゼ症候群の中で最も頻度が高い原疾患である(21~36%)1)。
□病因としては,糸球体上皮細胞の足突起下の標的抗原に対する抗体が免疫複合体を形成することにより,上皮細胞の機能障害を起こし,蛋白尿を発症させる疾患である。標的抗原として膜型ホスホリパーゼA2受容体(M-type phospholipase A2 receptor:PLA2R)が発見され2),日本人患者の約半数で流血中に同抗原への抗体が認められている。
□予後不良のリスク因子:男性,60歳以上,ネフローゼ症候群の遷延・蛋白尿8~10g/日以上,血清クレアチニン上昇(>1.5mg/dL),糸球体硬化病変,尿細管間質病変(>20%)。これらを伴う症例は積極的な治療適応である。
□わが国の調査結果によると,腎生存率(非透析率)は10年で89%,15年で80%,20年で59%であり,腎機能予後は比較的良好と考えられる。特に自然軽快する症例(約30%)および治療によって蛋白尿がネフローゼレベル以下に減少する症例の腎機能予後は良好である3)。
□二次性に発症する膜性腎症があり,感染症(B型肝炎,梅毒など),固形癌(肺癌,胃癌など),自己免疫疾患(SLEなど)や薬剤(抗リウマチ薬など)が原因となる。
□緩徐発症の蛋白尿を呈し,膜性腎症の約80%はネフローゼ症候群を,残りの約20%は非ネフローゼレベルの蛋白尿をきたす。
□身体的所見としては,下腿や眼瞼の限局性浮腫から全身性浮腫までを呈する。
□ネフローゼ症候群の場合には,尿蛋白≧3.5g/日(もしくは尿蛋白/クレアチニン比が3.5g/gCr以上)を呈し,30~40%の症例では軽度の糸球体性血尿を伴う。高コレステロール血症も軽度の場合が多い。
□尿蛋白のselectivity indexは0.1以上の中~低選択性を示す。
□確定診断は腎生検の組織所見により,光学顕微鏡検査ではPAM染色で基底膜がスパイク状もしくは櫛歯状に観察される。
□蛍光抗体法所見では,糸球体毛細血管壁に沿って(特発性の場合,IgG4が主体となる)IgG陽性の免疫複合体が数珠状に認められる。
□電子顕微鏡所見では,糸球体毛細血管の上皮下領域に断続的に高電子密度物質の沈着を認め,その間を基底膜より突起(spikes)が伸びる。
□腎生検にて膜性腎症と診断された場合,特に沈着するIgGの主たるサブタイプがIgG4以外の場合には,固形癌,自己抗体,感染症や薬剤などの二次性の原因を検索する。
□血清PLA2R抗体は膜性腎症の診断に寄与し,またその血清抗体価は腎機能予後に関連するほか,治療効果の判定にも有用であり,臨床応用が期待される2)。
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