□横川吸虫(Metagonimus yokogawai)は体長が1.0~1.8mm,体幅0.5~0.7mmの小形の吸虫で,小腸の上部~中部にかけて寄生する。組織侵入性はなく,成虫が小腸粘膜の微絨毛に密着して栄養を摂取している。第一中間宿主はカワニナである。カワニナは国内に広く分布しているので,横川吸虫感染自体は風土病ではない。アユ漁の盛んな地域に多い傾向がある。
□横川吸虫の近縁種で,有害異形吸虫(Heterophyes heterophyes nocens)がある。第一中間宿主は汽水域に生息するヘナタリという貝で,わが国では瀬戸内地方など西日本の沿岸地域で散見される。
□横川吸虫感染は,日本国内で診断される寄生虫感染の中で最も頻度が高いと推定され,都市部病院での人間ドックでも5%程度の検便陽性例が見つかる。
□食品媒介感染症である。横川吸虫の場合は,感染はほとんどアユの生食(せごし,うるかなど)によるものである。天然アユは高級魚であり,高所得層で感染が多く発生する傾向がある。西日本の河川産の天然アユではほとんど100%が横川吸虫のメタセルカリアが寄生している(図1)。
□有害異形吸虫は汽水域魚類のボラやハゼなどの生食で感染する。エジプトの長期在留邦人が現地のボラを刺身で食して感染する事例が散見される。
□ヒト→ヒトの直接感染はない。
□ヒト体内で組織侵入性がなく,小腸の微絨毛表面に密着する寄生様態であるため,少数寄生では症状が自覚されることはない。
□横川吸虫が数百個体以上寄生した場合でも,腹痛,腹部膨満感,下痢など不定の消化器症状にとどまるが,稀に蛋白漏出性胃腸症を起こすこともある。
□近縁種の有害異形吸虫感染のほうが,症状が重い傾向があるものの,それでも軽度の消化器症状にとどまる。
□健康診断や人間ドックなどの寄生虫症スクリーニング検査で偶然に発見されることが多い。症状から本症を疑うことはできない。横川吸虫症はアユの生食嗜好,有害異形吸虫はボラの生食嗜好がある人については,一応,疑ってもよい。
□検便の感度は高くないので,ホルマリン・エーテル法など集卵法によって検査することが望ましい。
□血清診断の信頼性は高くなく感度も良くない。
□虫卵(図2)は形態学的に肝吸虫と類似し,鑑別には注意を要する。横川吸虫卵と有害異形吸虫卵の形態的鑑別はきわめて困難なので,"異形吸虫様虫卵"と記述するほうが適切である。
□正確な診断のためには駆虫で得た成虫を確認する必要があるが,臨床的には重篤な疾患ではなく,治療法も共通するので積極的には勧めない。
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