□人獣共通寄生虫症のひとつである。エキノコックス属条虫は9種類に分類されているが,臨床的に問題となるものは主に単包条虫(Echinococcus granulosus)と多包条虫(E. multilocularis)の2種である。
□わが国では,前者は輸入感染症の原因寄生虫として稀なものだが,後者は北海道に常在するため,患者数は多くないものの重要性が高い。
□イヌ科の肉食動物(終宿主)の小腸に成虫が寄生し,糞便とともに環境中に放出された虫卵が中間宿主の草食動物に経口的に取り込まれ,肝臓や肺で幼虫が嚢胞(包虫)になって発育する。
□ヒトは中間宿主の立場で感染に巻き込まれる。単包条虫による感染を単包虫症,多包条虫による感染を多包虫症として区別する。典型的な単包虫症の場合は1つの球状の包虫が巨大化し,内部に二次嚢胞と多量の液体を貯留する。一方,多包虫症の場合は小胞が多房化して組織へ浸潤しながらスポンジ状に巨大化し,時に転移するため,悪性度が高い。悪性腫瘍と同様の扱いを必要とする。
□主要な標的臓器は肝臓で,次に肺の頻度が高い。幼虫の発育様式が異なるため,単包虫の場合は組織を単に圧排することになるが,多包虫は組織に浸潤して感染域を広げる。感染初期は無症状である。
□肝内の包虫が巨大化することにより,肝腫大・黄疸・腹水などがみられるようになる。症状が出現するまでに長期間を要し,寄生種・寄生部位・年齢などが影響し,潜伏期間は数年~十数年と一様でない。
□多包虫症の原発巣が肝臓の場合,肺・脳・骨への転移巣が稀にみられることがあり,転移部位が損傷されることにより,器官ごとに多彩な症状を呈する。
□腹部超音波検査やCTでは,嚢胞性の肝占拠性病変がみられる。多包虫症では,嚢胞内部が不均一で石灰化を伴う場合も伴わない場合もあり,画像所見は一様でない。単包虫症の場合,単純嚢胞の画像所見が多く,海外の流行地では腹部超音波検査で活動病巣と非活動病巣を識別している1)。
□鑑別診断のため,ELISAやウエスタンブロット法などの血清抗体検査を実施し,陽性の結果が得られれば,包虫症を強く疑う。
□生検組織,または術後の病巣の病理組織学的検査で,包虫固有の構造(クチクラ層や原頭節)が確認できれば,診断が確定する。また,包虫組織の遺伝子検査で原因種が特定できる。
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