編集: | 山﨑道夫(公立甲賀病院放射線科) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 272頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2017年09月07日 |
ISBN: | 978-4-7849-4700-3 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
腹部CTの見方がわかる! 急性腹症の鑑別診断が身につく!
第1章 はじめに知っておくべきこと
腹部画像検査の種類と適応
腹部造影CTの方法
急性腹症の診かた
第2章 腹部の画像解剖
腹部CT画像の見方
各臓器の見方
腹腔と後腹膜
第3章 画像所見別 鑑別診断のポイント
液体貯留
消化管拡張
濃度異常と造影効果
脂肪組織の乱れ
腸管壁肥厚
空気貯留
石灰化・結石・異物
急性腹症の超音波診断
第4章 救急・当直での画像診断の進め方
消化管出血
腸閉塞症
胃十二指腸潰瘍と消化管穿孔
消化管の炎症性病変(憩室炎・虫垂炎・炎症性腸疾患)
急性膵炎
膵腫瘍
脾病変
腹部大動脈瘤
大動脈解離
上腸間膜動脈解離・閉塞、腹部内臓動脈瘤
腎梗塞・急性腎感染症
尿路結石
急性前立腺炎・急性陰嚢症
胆石・胆嚢炎
肝腫瘍破裂
肝膿瘍
婦人科急性腹症
後腹膜出血・腸腰筋膿瘍
腹痛・背部痛をきたすその他の疾患
腹部外傷
学生さんに放射線科の勧誘をすると、かなりの方から「放射線科の将来は人工知能(AI)に置き変わるのでは?」という返しにあいます。心の中では、ぎくっとする質問です。確かに2045年にシンギュラリティ、すなわち人間の頭脳をコンピュータが越えるという予想があります。将棋のプロですらコンピュータとの勝負は諦めたという報道もあります。現在の画像診断はデジタル的に情報が得られており、AIの親和性が高いことは事実で、医学生の方々が持っておられる危機感は簡単には否定できません。
画像診断は、現在の医療でなくてはならないものになりました。これほどの進歩は、30数年前にこの仕事を選んだ私には、全く予想もしていなかったものでした。今日もレポートを早くするように、多くの診療科の先生からリクエストがくるのが現状です。
AIの特徴は、人間が考えたプログラムではなく、deep learningと呼ばれる思考方法にあります。要は人間が全く考えつかない独自の方法で「思考」がおこなわれ、人間にとっては、ブラックボックスです。画像診断をコンピュータに任せることは、医療自体がブラックボックスとなる可能性を思ってしまいます。人間の生死をコンピュータにゆだねる時代は、映画の名作『マトリックス』が描いていますが、私自身は、まだまだ簡単に容認できることではありません。
現時点の画像診断は、人間が考え出した方法で行われています。この分野で培われた医学知識も膨大です。しかし、分かりやすくポイントを絞って教わることができれば、能率的に診断技術を取得することは可能だと思います。本書は、若手の先生方に執筆をお願いし、画像診断初心者のつまずきやすい部分を特に詳しく解説して頂きました。
ここで、本書を使った画像診断の勉強法を紹介します。
画像診断の基本は解剖です。解剖の知識をもとに、初めて病態による異常所見が認識可能となるのです。したがって、本書を読み進める上で、まず第1〜2章をしっかりと理解してください。できるだけ簡単に記載したつもりですので、逆に分かりにくい部分があれば何度も何度も読み込んで理解してください。
1〜2章の知識がしっかりと身につけば、第3〜4章は特に順番を気にする必要はありません。実際の画像を見て異常所見に気付いた場合には、第3章の各節が診断を推測するのに参考になるでしょう。一方、経過や内科的診断によりある程度診断が絞り込めた状態ならば、第4章の各節を参照すればかなり診断に近づけることと思います。
画像診断に苦手意識を持つ学生さんは多いかもしれません。理由の1つは、実際の画像診断では沢山の連続画像で判断するのに、多くの教科書は典型的なスライス1〜2枚で疾患を説明することにあると思います。この方法では、疾患と画像所見は一対一の関係で、記憶力が頼りとなってしまいます。しかし、実際の臨床では、正常解剖の知識をもとに異常所見を認識し、症状や年齢、経過を組み合わせて確定診断に至る推理や推測のプロセスがあります。決して記憶力だけに頼る領域ではないということです。
本書で、腹部の画像診断に興味が出てきたら、次のステップは実際の連続画像を見ることをお勧めします。大学や、現在勤務している施設の放射線科を訪ねて、「○○病の典型画像を見せてください」と言ってください。教育に熱心な施設なら、本書で手に入れた画像診断技術の基本をさらに確かにできるはずです。
専門医のレポートだけに頼るのではなく、実際の画像を見て自分で理解することは、診断のダブルチェックとなり、医療の質の向上につながります。本書を参考に、ぜひ実際の画像を自分の目と頭で理解するように心がけてください。多くの臨床医が画像診断に理解を深めることが、未来のAIの適切な導入にもつながると思っています。
人間がAIをどのように医療に活用していくかは、将来の医療をどう築いていくかということです。コンピュータに何を任せて、何が無理なのか判断することが、これからの医師の大きな課題であり責務だろうと思います。私は、本書がきっかけとなって、画像診断に興味を持つ人がさらに増えていくことを期待しています。
最後に、忙しい臨床の合間に快く執筆して頂いた先生方、この企画を私に紹介して頂いた日本医事新報社の編集部、そして忙しい研修生活の間に本書に貴重なアドバイスを与えてくれた当院研修医の大橋瑞紀、松本悠吾、住尾健太郎の各先生、そして画像診断の楽しみを私に教えてくれた当院顧問の坂本力先生に感謝申し上げます。
2017年7月
山﨑道夫