前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)は認知度が高い一方で,明解な診断基準がない加齢性の病態である。下部尿路機能は「蓄尿」と「尿排出」にわけられ,蓄尿障害は過活動膀胱(overactive bladder:OAB)に代表され,尿排出障害はBPHに代表される〔女性にも尿排出障害は存在するため,定義問題の解決後には低活動膀胱(underactive bladder:UAB)という表現に代わる可能性もある〕。
蓄尿機能は脆弱で ,頻尿や尿失禁が「生活の質」を障害するのに対し,尿排出機能は比較的強靱で,老廃物たる尿を確実に排出する「生命維持」の働きである。よって臨床現場では尿排出機能を正確に診断することが求められる。理想的には,尿排出機能は尿流量(尿勢)で評価すべきだが,臨床上は「残尿量」が重症度判定の鍵となっている。排尿後に膀胱内に残った尿である残尿は,100~150mLを超えると尿路感染を難治性(複雑性)にするばかりでなく,膀胱尿管逆流から水腎症をまねき,進行すると腎機能障害につながるリスクを高める。また,下部尿路閉塞性疾患であるBPHは,総合感冒薬や抗ヒスタミン薬の「禁忌」とされるが,残尿量増加のない限り,その服用に問題はない。
自覚症状である下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)は,国際前立腺症状スコア(IPSS)で評価され,その有用性は広く認知されている。ただ,IPSSは自覚症状を評価しているにすぎず,重症度の鍵である残尿量(他覚所見)とは無関係である。
検尿と残尿測定は必須である。検尿は尿路のスクリーニングに最適で,血尿では尿路の結石や腫瘍等の精査が求められ,膿尿では感染合併が推定される。残尿測定に際してのエコー検査は有用で,水腎の有無の確認も容易である。また血中クレアチニン値に加え,前立腺特異抗原(PSA)を測定し前立腺癌合併の確認が行われることも多い。
理想的には「排尿日誌」で排尿プロフィール評価を行う。これは多飲多尿,間質性膀胱炎等の重要病態を鑑別するだけでなく,それ自体が「行動療法」ともなり,症状改善から多くの患者が満足を示す。また,フレイル例では,認知・運動機能障害由来の排尿障害を合併することが多く,理学療法や作業療法も有効である。
薬物療法では,選択的α1遮断薬と低用量ホスホジエステラーゼ5阻害薬が第一選択で,適宜,5α還元酵素阻害薬,漢方薬,生薬,β3刺激薬等が選択される。
手術療法の利点は多い。医療経済学的メリットだけでなく,下部尿路閉塞の物理的解除を得られるため,将来の尿排出力低下をきたす病態(脳卒中等)合併後も薬剤追加などで(複雑性尿路感染症等の重大合併症が不可避の)留置カテーテル管理を回避できる可能性が高まる点は,担当医として念頭に置くべきである。
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