尿管異所開口とは,尿管が本来接合する膀胱三角部以外のところに接合する疾患と定義される。男女比は1:6で女児に多い。欧米では約80%が重複腎盂尿管(特に上腎所属尿管)に伴うが,わが国では70%が単一腎盂尿管に生じると報告され,人種差を認めるようである。異所開口部位は,女児では膀胱頸部,尿道,腟,腟前庭などに開口する。男児では外尿道括約筋よりも近位(膀胱側)で膀胱頸部,尿道,精管,精囊に開口する。また重複腎盂尿管においては上腎所属尿管末端に尿管瘤を形成することがある。
発生機序:胎生期にwolf管から発生する尿管芽の位置異常により生じる(重複腎盂尿管例においては数異常も合併する)。尿管芽の発生が正位置から遠いほど,尿管開口部も正位置から遠くなる。また尿管開口部が正位置から遠いほど,所属腎の腎低形成・異形成化は重度となる(bud theory)。
症状:前述したように男女で開口部位の違いがあるため,臨床像も男女で大きく異なる。女児では発見契機として尿失禁がほとんどであり,そのほか尿路感染やその精査として排尿時膀胱尿道造影検査所見で見つかることもある。一方,男児では偶発的な発見のほか,下腹部痛や尿路感染,精路感染(主に精巣上体炎)が多い。女児における尿失禁の特徴はdry timeのない持続的な尿失禁である。診断時年齢はトイレットトレーニング終了後の4歳以降が多い。男児では無症状のことも多いが,症状を呈する場合は思春期に多い。
稀な病態として,女児では片側腎無形性と患側の重複腟閉鎖を呈するOHVIRA症候群がある。患側の重複腟閉鎖のため経血が貯留し下腹部痛を生じる。男児では片側腎無形性に患側精囊腺囊胞を呈するZinner症候群がある。
女児では会陰部をしばらく観察すると,液体が流れ出す様子が観察される。また常に湿潤しているため,会陰部皮膚のただれや湿疹が多くみられる。
腹部超音波検査やCT,MRI検査では,患側腎機能は高度低下,または廃絶しているため,単一腎盂尿管例では患側腎が描出されないことが多い。重複腎盂尿管例では患側腎の上極に多数の囊胞がみられることがある。開口部の閉塞を伴う場合は,骨盤内の囊胞性病変(拡張した下部尿管やGartner管囊胞)が確認されることがある。
排尿時膀胱尿道造影検査では,尿道開口例では異所開口尿管への逆流が確認されることがある。また重複腎盂尿管例では患側下位腎への逆流が確認されることがあるが,その場合,上腎杯が描出されない(drooping lily sign)ことから異所開口の診断に至ることもある。
膀胱頸部開口例では,排尿時に左右非対称な膀胱頸部が確認されることがある。
腎静態シンチグラフィー(DMSA)検査では,単一腎盂尿管例は患側腎が正位置よりも低く,やや正中寄りにうっすらと描出されることが多い。重複腎盂尿管例では患側腎上極の欠損・変形がみられる。
尿道膀胱鏡検査は最も確実な開口部の確認方法である。女児尿失禁例では,腟前庭や腟内上壁に開口部が存在していることが多い。皺壁の存在や左右差を頼りに注意深く観察しても開口部が不明なことも多い。
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