精巣静脈の血流が逆流することで精巣周囲の静脈の拡張が生じるようになった状態を精索静脈瘤と言う。血液が逆流することで陰囊の違和感,鈍痛が生じたり,逆流血により精巣温度が上昇することで精巣の精子形成能に障害を引き起こしたりすることがある。小児の場合,陰囊の拡張した血管を健診で指摘されたり,親が偶然気づいたりすることで受診することもある。無症状であることも稀ではなく正確な疾患頻度は不明だが,健常男性の10%ほどに認めるとされている。男性不妊症の原因としては約20~40%を占めており,最も頻度の高い疾患である。
精索静脈瘤の程度が高度な場合には,精巣の外側から上方にかけて太く拡張した静脈が蛇行して見えるが,あたかも皮下にミミズが這っているような様相を呈する。無症状のこともあるが,症状を自覚する場合は慢性的な陰囊部の鈍痛や不快感,違和感を訴えることが多い。急性の強い痛みは他疾患を疑う。長時間の立ち仕事のあとや夕方になるにつれて増悪する鈍痛,不快感が典型的な症状である。不妊症の訴えがある場合は自覚症状の有無にかかわらず精索静脈瘤の有無を確認することが推奨される。
通常左側のみに発生するが,稀に両側に認めることがある。臨床的に問題となる精索静脈瘤が右側だけに発生することはほとんどない。立位で陰囊皮膚が伸展した状態での診察が基本である。診察室の温度が低かったり,診察台が冷たかったりすると,陰囊皮膚が収縮し正確な診断が困難になるため注意が必要である。立位のみで視認できればグレード3,立位のみで触知できればグレード2,腹圧をかければ触知できるものがグレード1に分類される。陰囊皮膚が収縮していると理学所見での診断は難しく,立位で陰囊超音波検査を行うことで診断の補助になる。明確な基準はないが,血管径が3mmを超えると有意とする報告もある。また,カラードプラーを併用することで立位時や腹圧時の血液の逆流を確認することができる。
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