2年間にわたり平均年齢83歳の高齢者111名の血清マグネシウム(Mg)濃度を調べた。Mg製剤内服者個人の平均血清クレアチニン(Cr)値は最大で1.54mg/dL,採血総数での最大血清Cr値は2.09mg/dLであった。最大血清Mg濃度は高度腎機能低下があっても4.0mg/dLを超えなかった。血清Mg濃度の異常高値はクレアチニンクリアランス(Ccr)が60 mL/分未満の場合,低下の度合いと相関するように思われた。Mg製剤非内服者でも血清Mg濃度の異常高値が多く認められ,日常生活でのMg摂取量の多さが推察された。
血清Cr値は,一過性に2.0mg/dL前後の高値となっても,Mg製剤の内服上問題はないと考えられた。Ccrが30~10mL/分の高度腎機能低下を呈する高齢者でも,Mg製剤による副作用はまったく認められなかった。
厚生労働省は2008年11月,医薬品・医療機器等安全性情報252号(以下,252号報告)で,酸化マグネシウムによる高Mg血症について「定期的に血清マグネシウム濃度を測定する」など,さらなる注意喚起を行った。2005~08年に高Mg血症15例が報告され,うち2名が死亡した。同号報告によると死亡者1名は80歳代女性,血清Mg濃度17.0mg/dL,回復者1名は90歳代女性,血清Cr 2.17mg/dL,血清Mg濃度6.1mg/dLであった。
平均年齢82歳の有料老人ホーム2施設(総入居者数700名)の協力医療機関となっている当診療所は開設8年目であったが,この252号報告に対し,奇異な印象を持った。腎機能低下を必然的に持つ高齢者に対し,Mg製剤がさほど影響を与えているとは思えなかったからである。筆者は聖隷三方原総合病院消化器内科勤務を経て,現職に異動したが,これまで,Mg製剤を慢性便秘に対する第一選択薬として多用してきた。しかし,この252号報告にあるような事例には一度も遭遇していない。
高齢者では慢性便秘が多く,Mg製剤はその良い適応である。センノシド製剤は即効性はあるが,高齢者は腹痛やそれに伴う血圧低下などを起こしやすく,また耐性も生じやすいため,当院ではほとんど処方していない。高齢者の血清Mg濃度が,実際どの程度の数値なのかを調べるために,対照群も含め,2010~11年にデータを収集したので報告する。
2010年1月~11年12月の2年間,平均年齢83(67~101)歳の高齢者111名の血清Mg濃度を調べた。病的腎疾患のある患者は除外した。最終的な人数はMg製剤内服者59名,非内服の対照者52名の計111名,採血総件数は1442件,観察中にMg製剤内服量の大きな変動のあった患者は除外した。また,2年間に老衰,入院,死亡などで16名を除外した。
便秘や下痢などで,数日から1~2週間程度の内服量の変動は,内服者の大半で起きているが,基本的には同じ量を継続した患者のデータをそろえた。血液分析は聖隷三方原総合病院臨床検査部で行った。
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