多発性硬化症(MS)は,中枢神経系(脳・脊髄・視神経)の脱髄疾患のうち,空間的多発性(DIS)および時間的多発性(DIT)を満たし原因不明のものと定義されている
DISとDITに関するMRI基準をまとめたものがMcDonald診断基準(2010年改訂)であり,T2強調画像で高信号を呈する「T2病変」を脱髄病変とみなす
治療反応性が異なる視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)が相対的に多いわが国においては,MS診断前にNMOSDを鑑別することが診断基準適用の前提条件である
診断が容易ではない非典型的なMSもあり,鑑別診断に苦慮する場合は専門家を紹介するべきである
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)の名前は元来,病理学的に多発する脱髄巣がグリオーシスのために「硬く」なっていたことに由来する。いわば病理学的概念であったMSに臨床定義を付したのが,1965年のSchumacher基準1)であり,MSとは中枢神経系(すなわち,脳・脊髄・視神経)の脱髄疾患のうち,空間的多発性(dissemination in space:DIS)と時間的多発性(dissemination in time:DIT)を満たす,原因不明のものとされた(なお,本稿では大半を占める再発寛解型MSのみを議論し,進行型MSに関する議論は誌面の都合上省略する)。当初「脱髄」は脳生検などによって病理学的に立証するか,電気生理学的に間接的に示すしかなかったが,MRIの台頭によりこれをT2強調画像の高信号病変(いわゆる「T2病変」)に置き換えることが提案され,次項で示すMcDonald診断基準がつくられた。