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ヒト・パピローマウイルス・ワクチン関連神経免疫異常症候群の臨床的総括と病態の考察 [学術論文]

No.4758 (2015年07月04日発行) P.46

横田俊平 (東京医科大学医学総合研究所小児難病部門長/横浜市立大学医学部小児科)

黒岩義之 (帝京大学医学部附属溝口病院脳卒中センター長/日本自律神経学会理事長)

中村郁朗 (一般財団法人難病治療研究振興財団事務局長)

中島利博 (東京医科大学医学総合研究所運動器科学研究部門教授)

西岡久寿樹 (東京医科大学医学総合研究所所長/一般財団法人難病治療研究振興財団代表理事)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-15

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  • 1. はじめに

    わが国においてヒト・パピローマウイルス(human papillomavirus)ワクチン(HPVワクチン)を接種された中学生・高校生を中心とする若い女性に慢性疼痛を中心とする特異な副反応が多数発生し,2009年12月1日~14年3月末までの4年4カ月間に,厚生労働省へ報告されたHPVワクチン副反応数は2475例にのぼっている1)
    一方,臨床の現場では2013年初頭頃より,疼痛性障害,慢性疲労症候群様症状,月経異常,自律神経障害,ナルコレプシー,光過敏・音過敏,高次脳機能障害など複数の症状が重層的に現れ,学習が阻害され,また全身痛により登校ができなくなり生活障害に至る例がみられるようになり,いずれもHPVワクチン接種歴を共通項としていた。HPVワクチン接種との関連を解明するために,一般財団法人難病治療研究振興財団(以下,難病財団)は,病理学,ワクチン研究,免疫学,精神科,リウマチ科,神経内科,神経生理学,小児科などからなるHPVワクチン副反応に関する検証チームを組織し,これらの患者のデータベースの解析に基づきHPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HPV vaccination associated with neuro-immunopathic syndrome:HANS)の概念とその診断予備基準を提唱した2)
    HANSは14~20歳の女性に多く認められ,上述の多彩な臨床像は既存の疾患概念にない新規病態であると提唱した。HANSはHPVワクチンの接種後に生じており,HPVワクチン接種との間に強い関連性がうかがわれた。
    本稿では,これらの病像を中心に広範囲疼痛,高次脳機能障害や自律神経障害をもとに症候学的な検討を加えた結果について述べる。

    2. 難病財団調査研究班による厚生労働省HPVワクチン副反応報告例の解析


    厚生労働省厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(以下,副反応部会)が公表した2475例の副反応報告一覧表では,医療機関あるいは製造販売業者の判断によって1231例が重篤例として報告されていた。しかしながら,副反応部会においては617例を重篤例としたが,そのうちから既知の疾患と診断できるものなどを除外した。最終的に接種部位以外の広範な疼痛および運動器障害を中心とした急性期の176例のみを検討すべき症例とした。さらに,副反応部会は,176例についてその原因を「心身の反応」によるものと結論づけた1)
    この結論に疑問を持った筆者らは難病財団に検証チームを作り,副反応部会の2475例の症状をデータベース化し,副反応の症状の内容,発現頻度について詳細に検討を行った。その結果,2475例のうち重篤と報告された1231例が呈した症状の総数は4649件であり,頻度の高かった60症状を高いものから順にグラフに示した(図1)3)。意識消失,注射部位疼痛,発熱,痙攣,頭痛,筋力低下,失神・失神寸前の状態,転倒,関節炎・関節痛,悪心,疼痛などが上位を占めており,ほとんどの症例において重篤な症状が重複していた。

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