デング熱・チクングニヤ熱などの媒介蚊対策において,神社仏閣などの宗教施設内には蚊が発生し棲息できる場所が多く,その対策が重要である。今回,多宗派の宗教関係者を対象に,媒介蚊対策を行う上での困難や必要な支援についてアンケート調査を行った。
その結果,宗教施設敷地内には媒介蚊が棲息する条件が様々に存在する一方,媒介蚊対策には負担が多く困難を伴うことがわかった。古都保存法による指定地域や隣接公営墓地など,宗教関係者が手を出しにくい場所もあり,公的支援が必要と考えられた。また,不殺生戒など教義との葛藤もあるように見受けられた。
また,敷地内の清掃に信徒やボランティアといった外部の一般人が従事する点や,聖職者による説法の中で感染症の話題が既に一定割合語られ,リスクコミュニケーション的に作用していることから,宗教関係者への情報提供が必要である。
2014年夏,東京・代々木公園に端を発したデング熱国内感染事例は大きく報道され,広く世間一般の関心を集めた。現場の代々木公園を航空写真で見ると,明治神宮や神社本庁と連続した森になっており,媒介蚊が公園内で発生したものなのか宗教施設敷地内で発生したものなのか区別することは困難である。しかしながら,報道の映像は東京都の施設である代々木公園に集中し,公園の閉鎖措置や薬剤散布シーン,調査シーンを放映するばかりであり,隣接する宗教施設敷地に対する世間一般の関心の低さを実感した。
筆者は同時期に,仏教系・神道系・新興系を含めた多宗派が所属する宗派横断的な勉強会(国際宗教同志会)1)で講演の機会を得たが,その際に,宗教関係者が媒介蚊対策に対する高い関心を共有していることを実感した。神社仏閣などの宗教施設は豊富な植生や水のたまりやすい場所が多く,具体策や近隣住民との関係まで含めた悩みが語られた。
一方で,一部の僧職・神職(以下,まとめて聖職者と記述)が感染症に関して筆者が想定していた以上の正確な知識を持ち,説法の場面で感染症の話題が語られ,リスクコミュニケーション的に作用していることもわかった。そこで,媒介蚊対策を行う上での困難や必要な支援,利用可能性などを明らかにすることを目的として,筆者が多宗派を対象に意識調査を行ったので報告する。
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