(鹿児島 H)
非常に的確なご質問であると考えます。私たちが行った重症薬疹の疫学調査でも年齢とともに患者数の増加がみられます1)。これは高齢になると薬物を摂取する機会が多くなることが大きな要因と考えられます。薬疹と「免疫機能」との関係については十分に解明されているとは言えませんが,現在のところ判明しているのは以下の点です。
T細胞には皮膚を障害するエフェクターT細胞(Teff)と過剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞(Treg)があって,前者がアクセル,後者がブレーキ役を果たし,両者のバランスによって均衡が保たれています。多くの薬疹の発症には薬剤によるT細胞の活性化が必要ですが,特にブレーキ役であるTregに機能障害があると,結果としてTeffの活性化が生じやすくなるため,薬疹は発症しやすく,しかも重症化しやすくなると考えられています2)。
高齢者では個人差が大きいもののTeff,Tregともに機能低下を伴うことが多いことがわかっています。Tregの機能が低下するとTeff/Treg比は上昇し,薬疹を生じやすくなります。ただしTeffの機能も低下しているので急激に重症化することは少なく,緩徐な経過で増悪する傾向がみられます3)。ご質問にあるように,中年期より高齢になってからTregの機能の低下によってTeffによる薬疹などの過剰免疫反応はむしろ生じやすくなったと解されます。
疫学的データから,両者には関連ありとする論文と,なしとする論文があります。最近ではシステマティック・レビューによるメタ解析結果などから,悪性腫瘍全般と水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)は関連なしとする見解が優勢です4)。
悪性腫瘍内やその周囲の病変部では,末梢血に比べてTregが顕著に増加することが多く,予後不良因子とされています5)。しかし,末梢血レベルでは,治療や急性感染症などの影響を受けて,Tregの数や機能は一定しておらず,担癌患者においてもTreg機能の低下があれば,その影響を受けて自己免疫疾患を発症したとしても不思議はありません。
Treg欠損に関連したBPの症例報告もあり6),BPにおいてもTregの機能低下の影響により,BP180などの抗原に反応するTeffの活性化を介して抗原特異的B細胞を誘導し,自己抗体産生を促進するものと考えられています。
【文献】
1) 北見 周,他:日皮会誌. 2011;121(12):2467-82.
2) Shiohara T,et al:Allergol Int. 2010;59(4): 333-43.
3) 塩原哲夫:Geriat Med. 2012;50(7):801-5.
4) Atzmony L,et al:J Am Acad Dermatol. 2017; 77(4):691-9.
5) Takeuchi Y,et al:Int Immunol. 2016;28(8): 401-9.
6) Taki R,et al:J Dermatol Sci. 2007;47(1):104.
【回答者】
末木博彦 昭和大学医学部皮膚科学講座主任教授