年金の受給開始年齢の引き上げに伴い,加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)の顕在化が危惧される
うつ病やうつ症状の原因は様々であり,それぞれ対応が異なる
うつ症状が認められる場合には,自殺念慮の有無を確認する
対症療法として向精神薬を処方する場合には,十分な検討が必要である
自殺念慮が認められる場合には,精神科の受診を強く促す
わずか30年前まで,定年は55歳だった。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正・施行される中で,定年は1998年に60歳に引き上げられた。さらに,2013年には希望する労働者全員を65歳まで継続雇用することが義務化されている。同時に,老齢基礎年金の定額部分の受給開始年齢は,13年4月から既に65歳に引き上げられている。そして25年には,老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢も65歳に引き上げられることが決まっている。雇用施策と年金受給の両面から,少なくとも65歳までは働かなければならない時代になったと言えるであろう。
このような時代の中で,加齢男性性腺機能低下症候群(late-onset hypogonadism:LOH症候群)とうつ症状の関係は大変興味深い。LOH症候群は,加齢によるアンドロゲン低下に起因する病態である1)。就労期間が延びる一方で,それに呼応して十分量のアンドロゲンが分泌される期間も延びるのだろうか。そうは考えにくい。むしろ,LOH症候群であることに気づかず,精神と身体に関する不調を抱えながら長期間にわたり就労する人が増えるのではないかと危惧される。そのため,日々の臨床においてLOH症候群の可能性にもいっそう注意を払う必要があるだろう。本稿では,LOH症候群とうつ症状の関係について再考し,精神科医の視点から今後の展望について述べる。