〔要旨〕南北首脳会談、米朝首脳会談が開かれ、朝鮮半島情勢は大きく変化していくが、そうした中で医学界が把握しておくべきことを、WHO統計および筆者自身の脱北難民保護業務経験から記した。今後は「38度線を跨ぐ人の流れが増えること」と「医療支援で関わる可能性」がポイントとなり、その動向により、感染症の流入、医療支援の両面から同国の状況をフォローしていく必要がある。
紆余曲折を経ながらも2018年6月12日に米朝首脳会談が実現に至り、それに先立ち南北首脳会談が複数回行われた。今後の会談予定も取り沙汰され、朝鮮半島情勢は大きく動いていく。
筆者は前職、外務省医務官として北京に勤務する中で、脱北者案件に関わった。ウィーン条約で保護された外国公館に駆け込んでくる北朝鮮難民の保護業務に従事しつつ、医療過疎を実感する経験となった。今後の半島情勢の動きにより、我々医学界の人間は何を知っておくべきか考察する。今後の動きについて、米国大手証券会社のモルガン・スタンレーは、「雪解け」「交流」「統一」の3つのシナリオに分けて検討しているが1)、いずれも38度線を跨ぐ人の流れは増える方向で共通しており、この「38度線を跨ぐ人の流れが増えること」と「医療支援で関わる可能性」がポイントとなる。
この国では統計的な資料がほとんど公表されていないのが実情であり2)、WHOの統計に頼らざるをえず、本稿でもWHO統計に基づいて論じる。ただし、元々WHOに報告されたデータが恣意的なものという指摘もあり3)、正確性には限界がある。
死因のトップ10は、①心臓発作(19.4%)、②慢性閉塞性肺疾患(11.8%)、③虚血性心疾患(11.4%)、④下部呼吸器がん(5.6%)、⑤肺炎(5.5%)、⑥自殺(4.3%)、⑦肝硬変(2.1%)、⑧肝がん(2.1%)、⑨腎疾患(1.9%)、⑩高血圧性心疾患(1.8%)の順となっており、循環器系の多さが際立っている4)。
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