昨年4月の本誌特集「今日読んで、明日からできる診断推論」(No.4644)1)では,診断の思考プロセスを直感と推論にわけて解説した。
56歳の男性が,昨日からの皮膚の痒みを訴えて来院した(図1)。
特徴的な皮膚所見をみるだけで,“スナップ診断”的に帯状疱疹の診断名がひらめく。
56歳の男性が,全身の「だるさ」を訴えて来院した(表1)。
だるさをきたす疾患は非常に多いので,スナップ診断をするのには無理がある。診断にたどりつくためには,患者の症状に対応する適切な診断仮説の候補をいくつか想起し,鑑別診断のリストをつくって検討する“分析的アプローチ”が必要になる。
しかし実際には,臨床医はこれら2つの方法を別々に使っているわけではない。
直感ケースのように,「これだ」と自信を持ってピンポイントの診断名がひらめいてくれるケースはあまり多くない。逆に,推論ケースのように,たくさんの鑑別診断のリストを挙げて吟味しなければならないケースもそう多くない。
推論による診断は,検討すべき鑑別疾患,収集すべき情報が多くなりがちで,時間がかかり精神的なエネルギーを消費する。医学生が鑑別診断の勉強をする目的にはよいが,時間的な制約のある現場の臨床医にとって全例を分析的アプローチするのは非効率,非現実的である。そのため,実際に多いのはこの中間のケースで,動的に直感と推論を行ったり来たりしながら診断を絞り込んでいく。
分析的アプローチをしなければ診断できない症例が存在するのは確かだが,経験を積むにつれて直感的(スナップ診断的)に処理できる部分が多くなっていく。慣れないうちは,たくさんの鑑別候補疾患を検討しなければならないが,診断推論の修練を積むにつれて,最初から少数の絞られた鑑別候補疾患が想起できるようになる。
直感的診断は,無意識の領域で自動的に行われるプロセスなので,直接操作して鍛えることはできないが,分析的アプローチによる練習をすることで,間接的に鍛えることは可能である。
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