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坐位時間と下肢静脈血栓の関連性は?【坐位は下肢静脈血栓塞栓症のリスクであり,2時間以上の坐位は避けることが賢明である】

No.4920 (2018年08月11日発行) P.64

冨士武史 (地域医療機能推進機構大阪病院副院長)

登録日: 2018-08-12

最終更新日: 2018-08-06

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私の勤務している病棟では,主にリハビリテーションとリハビリテーションの間や,食事の間などの時間に,患者が椅子や車椅子に座っている姿を頻繁にみかけます。長い場合は1時間を経過することもあり,その患者にD-ダイマーの上昇や下肢静脈血栓を認めることがときどきあるため,坐位が原因ではないかと考え,坐位の時間を減らすことに努めています。坐位と静脈血栓との関連性および予防策についてご教示下さい。

(大阪府 K)


【回答】

まず,「坐位は下肢静脈血栓塞栓症のリスク」と感じておられますが,その通りです。椅子(車椅子も含めて)に座っていると,股関節と膝関節は屈曲しており,心臓の位置に比較して低い位置に下肢があるので,重力の影響もあって静脈の流れが遅くなります。静脈血栓が形成される要因として,①静脈血流の停滞,②血管内皮の障害,③凝固亢進状態,があります(Virchowの3徴)。椅子に坐っていることで①の静脈血流の停滞が生じますので,静脈血栓が生じやすい状態と考えられます(図1)1)。長時間の飛行機搭乗で生じる静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群と言われる場合もあります)は,長時間坐位でいることと,空気が乾燥しており脱水状態になりやすいこと,狭い機内で歩く機会がないこと,などが原因とされています。

従来,日本人は静脈血栓塞栓症が生じにくいと誤って考えられていましたが,一定の確率で生じています。地震などの災害で,自家用車の中に避難して夜を明かした場合に,肺血栓塞栓症(下肢の深部静脈血栓が流れて肺動脈に塞栓をつくる病態)で死亡した事例などをニュースで見られたかと思います。このような災害時の避難では,眠るときには臥位で下肢を伸ばして眠る,避難所の中を歩き回る,足関節の自動運動をしっかり行う,弾性ストッキングを装着するなどの予防策を実施することが大切と考えられています。病棟でも坐位の時間が長くなるようであれば,ときどき立ち上がって足踏みをするなどの予防が大切と考えられます。欧州では,4時間程度のオペラ鑑賞のあとで肺血栓塞栓症が生じた事例も報告されています。

D-ダイマーの上昇は血栓の存在を表すことが多いのですが,手術後には創部への出血などのために一般的に正常値ではなく上昇しています。したがって,術後の患者ではD-ダイマーの値で静脈血栓の有無を判定するのは難しいと考えられます。そのためにカットオフ値を決めている施設もありますが,カットオフ値より低いからと言って血栓がないことにはなりません。

手術後の患者では,手術創のために全身的な凝固亢進状態となっており(前述の③),下肢の手術では手術操作による血管の牽引などが生じているので,血管内皮の障害が生じていること(前述の②)も考えられます。手術中の体位や術後の安静は,血流の停滞を生じている(前述の①)ので,手術後の入院患者はすべて静脈血栓塞栓症が生じやすい状態になっていると考えられます。日本麻酔科学会の調査でも,手術後の肺血栓塞栓症が一定の割合で生じています2)。早期離床や足関節自動運動,弾性ストッキングの装着などをすべての患者に行うべきと思いますし,下肢の人工関節置換術などの血栓のリスクの大きい手術後には,間欠的空気圧迫法や抗凝固療法を行うほうがよいと考えられています3)

「早期離床」は大切ですが,「車椅子離床」ではベッド上臥位でいるよりも静脈血栓塞栓症のリスクが高いと考えられます。どのくらいの時間なら坐位でよいのかという研究は見つけられませんでしたが,一般的には2時間以上の坐位は避けるようにするのが賢明と考えられます。車椅子に乗っても1~2時間に1回は立ち上がって足踏みをするという習慣にしたいものです。

【文献】

1) 冨士武史:整外看. 2013;春季増刊号:203-20.

2) 黒岩政之, 他:麻酔. 2010;59(5):667-73.

3) 冨士武史, 他, 編:静脈血栓塞栓症予防ガイドブック─エキスパートオピニオン. 南江堂, 2010.

【回答者】

冨士武史 地域医療機能推進機構大阪病院副院長

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