(大阪府 I)
【透析患者の検査値は多くの要因による影響を受けるため,検査センターのデータ等を確認して臨床的意義を判定する】
血液透析患者の血液検査等においての基準値は,腎機能正常者と比較して留意すべき点がいくつかあります。
まず,腎機能廃絶していることによる影響,また維持血液透析療法(薬剤も含む)による影響です。
腎機能低下,廃絶による影響としては,腎不全環境における影響と,腎機能低下による排泄低下の影響が挙げられます。
腎不全環境での影響の例として,肝機能の指標であるAST,ALTがあります。透析患者でAST,ALTは低値を示すことが知られていますが,その理由として,尿毒症の病態,尿毒症病態における酵素活性異常が挙げられています1)~4)。
また,糖化の指標として用いられるadvanced glycation end products(AGEs)の1つのpentosidineも透析患者の血中において上昇することが知られています。これは糖尿病を原疾患としない維持透析患者においてもみられることから,原因は腎不全病態によることが推測されています。特に腎不全病態による酸化ストレスの関連が考えられています。pentosidine自体の分子量は小さいのですが,その多くはアルブミン等の蛋白と結合することより,透析により除去されにくいことも判明しています5)。
さらに,比較的分子量の大きな物質,低分子量蛋白等のいくつかにおいても腎機能低下による排泄低下の影響があると考えられます。β2ミクログロブリンはその一例です。
腫瘍マーカーのいくつかにおいては,排泄低下の影響についても報告されています。CEAは透析患者で腎機能正常者の3倍,CA19-9は2倍程度,SCCは4倍程度上昇すると報告されています6)。
血液透析による影響としては,主に微細炎症の関連でいくつかの蛋白質の血中濃度が上昇する可能性が報告されています。血液透析療法に関しては体外循環を余儀なくされますが,症例によっては体外循環に用いる機材・薬剤(ダイアライザ,回路,透析液)により微細炎症が惹起されます。前述したAGEsは腎機能低下による排泄低下,腎不全病態の酸化ストレスについての影響が主ではありますが,その他に血液浄化による微細炎症により産生が亢進するとの報告もあります7)。
現在,維持透析患者に赤血球造血刺激因子(ery-thropoiesis-stimulating agents:ESA)製剤を用いるのが一般的ですが,透析患者では赤血球寿命の短縮に加えて,このESA製剤の影響もあり,幼若赤血球の割合が増加して,糖代謝の指標であるHbA1cは低くなることが報告されています8)。
このように,透析患者においては,多くの要因により血液検査値が影響されます。現在のところ,多くの検査マーカーにおいて,維持透析患者における検討がされており,それらのデータは検査センターでも把握されていることと思います。これらのデータ等を確認して,臨床的な意義を判定することがよろしいかと思います。
【文献】
1) Cohen GA, et al:Ann Intern Med. 1976;84(3): 275-80.
2) Crawford DR, et al:Nephron. 1978;22(4-6): 418-22.
3) Ono K, et al:Clin Nephrol. 1995;43(6):405-8.
4) Van Lente F, et al:Clin Chem. 1986;32(11): 2107-8.
5) Vanholder R, et al:Pediatr Nephrol. 2008;23 (8):1211-21.
6) 友 雅司:臨床析. 2005;21(4):419-24.
7) Izuhara Y, et al:Am J Kidney Dis. 2004;43(6): 1024-9.
8) 日本透析医学会:日透析医学会誌. 2013;46(3): 311-57.
【回答者】
友 雅司 大分大学医学部附属臨床医工学センター診療教授