こどもの病歴聴取と身体診察を学ぶワークショップ(HAPPY)を運営する一般社団法人「こどものみかた」の理事で開業小児科医の児玉和彦氏が26日、都内で開かれた日本外来小児科学会の「小児AMRセミナー」で小児の風邪診療について講演し、抗菌薬の適正使用に向けて「外来で必要なのは抗菌力より説明力」と強調した。
抗菌薬の適正使用を巡っては、政府が2016年に薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを策定。20年までに抗菌薬全体の使用量を13年比で33%減少する目標を打ち立てた。一方で、日本化学療法学会・日本感染症学会が今年行った調査によると、風邪と診断した患者・家族が抗菌薬処方を希望した場合、処方すると回答した診療所医師は6割に上っている。
講演で児玉氏は、「EBMではほとんど結論がついている、風邪に抗菌薬を使わないということがなぜできないのか」と問題提起した上で、「おそらく、患者の期待にどう対応するかという非臨床的な要因が大きいと言われている」との見解を紹介。小児の風邪の診療について「外来で必要なのは抗菌力より説明力。“どうしたら患者さんのケアが良くなるのか”という視点で、専門職同士や、我々と患者さんといった立場が異なる者同士が協調することが重要ではないか」と呼びかけた。
具体的な診療について児玉氏は、初診日に患者・家族に風邪の自然経過について「鼻水・咳は3日目に最大となり、7~10日で治る」などと図を用いて説明していることを披露。また初診日に「40度も熱があります。抗生剤を飲まなくて大丈夫ですか?」との訴えがあった場合には、「熱は味方です。発熱は防御反応で、熱が高いほうが、免疫機能が上がってばい菌をやっつけやすくなると言われています。熱を下げる必要はないのです」などと説明していることを紹介した。さらに近年、ワクチンの導入により細菌性髄膜炎が著減していることを説明し、「髄膜炎を恐れて抗菌薬を投与する時代は終わった。そもそも二次感染予防、重症化予防のための抗菌薬投与は根拠がない」と強調した。
一方で、①熱が3日以上続いている、②迅速検査が陰性、③CRPが高い、④鼻水、咳もなく熱が続いている―という症例の場合、「紹介先の病院には『風邪じゃないかもしれない』を許容してほしい」と会場の病院医師に要望。その上で、紹介先病院に望む対応として「可能な限りの原因検索をし、原因が分からない時に、念のため抗菌薬を使うということをしないでほしい」と述べるとともに、「適切な診断をしてフィードバックしていただけたら、開業医の力も伸びる。病院の先生の処方は地域全体に影響しているので、地域を教育するという意識を持ってほしい」と期待を示した。
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