ロボットによる精緻操作が,開胸のような正確な手術を可能にする
葉間・肺門部剝離,リンパ節郭清,癒着剝離,縦隔操作,縫合などに有用である
2018年度より肺癌に対する肺葉切除術,縦隔腫瘍摘出術に保険適用となった
術後の呼吸器合併症の軽減とQOLの向上が期待される
胸腔鏡手術に対する優越性は,まだ明らかにされていない
胸部外科領域は血流豊富な大血管が多く,リスクマネジメントが重要である
手術支援ロボット(da Vinci® Surgical System)の最大の利点は,3次元視野下に関節を有する自由度の高い鉗子を用いて,巧みな手術操作ができるところであり,従来の内視鏡手術の欠点を補う新たな低侵襲手術として発展が期待されている1)。
胸部外科領域でも,手術支援ロボットが市場に出てきた2000年当初より応用が始まった。欧米では,2002年にはMelfiら2)が12例の報告を行い,その後,徐々に浸透してきた。
わが国でも,2001年にYoshinoら3)が縦隔腫瘍に対するロボット支援手術を報告したが,なかなか普及に至らなかった。理由としては保険適用やコストの問題が大きいが,それ以外にも胸部外科領域では①胸腔内は血流豊富な大血管が多い,②ターゲットエリアが広い,③切除手術が主体で再建手技が少ない,④完全胸腔鏡手術の導入施設が少ない,⑤他分野よりラーニングカーブ(習熟曲線)が遅い,⑥胸腔鏡手術と比較してメリットが証明されていない,などの特有の問題が考えられる1)。
2018年3月末までに,全国に約280台の手術支援ロボット“da Vinci” が導入され,胸部外科領域では約30施設で600例弱が施行されている(図1)。2018年度の診療報酬改定により,肺癌と縦隔腫瘍に対するロボット支援手術の保険収載が決定した。今後の本格的ロボット支援手術の時代到来にいよいよ期待がかかる。