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変形性関節症で痛みが生じる仕組みは?

No.4930 (2018年10月20日発行) P.62

内尾祐司 (島根大学医学部整形外科学教室教授)

登録日: 2018-10-17

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変形性関節症で痛みが起きる仕組みを教えて下さい。軟骨がすり減ってくるためと言われていますが,軟骨には感覚神経はないのに,なぜ痛みが生じるのですか。関節内での炎症が起きて滑膜を刺激して滑膜の痛みを起こしているのでしょうか。

(東京都 F)


【回答】

【痛覚神経の末梢の髄鞘が消失した自由神経終末にある侵害受容器から痛みが伝達される】

変形性関節症(osteoarthritis:OA)の病態の主座である関節軟骨には神経がありませんので,痛覚は関節包や骨髄,靱帯,半月板,骨膜などにある感覚神経(この場合,痛覚神経)の自由神経終末から伝達されます。自由神経終末は痛覚神経の末梢の髄鞘が消失したものです。OAによって関節の変性・破壊が生じ,荷重・衝撃負荷に対する緩衝機能が失われると,機械的刺激は過負荷となって,自由神経終末にある侵害受容器(高閾値機械受容器)を発火させます。これはチクチクとする短く鋭い痛み(一次痛)として有髄Aδ線維を介して後角侵害受容ニューロンに伝えられます。

一方,機械刺激のほか,OAによる組織障害によってマクロファージ,肥満細胞,好中球,脂肪細胞などから神経成長因子,ブラジキニン,TNF-α,インターロイキン,セロトニン,ヒスタミン,プロスタグランジンE2(prostaglandin E2:PGE2)などが放出されると,これらは痛覚神経の自由神経終末にある侵害受容器(ポリモーダル受容器)のうち,G蛋白質共役受容体と結合して,脱分極を起こし,痛覚伝達を行います1)。また,カプサイシン,NO,プロトン,ATPなどはイオンチャネルに作動して脱分極させ発火させます1)。さらに,ブラジキニンやPGE2などはイオンチャネルの閾値を下げ過敏にさせます。これらは主に遷延性で鈍い痛み(二次痛)として,無髄C線維を介して後角侵害受容ニューロンに伝達されます。脊髄後角に伝えられたシグナルは,シナプスを介して上行性のニューロンに伝えられます。これは対側の脊髄視床路を伝わって視床に届きます。

Aδ線維を介したシグナルは視床の後外側核に伝達された後,外側系の体性感覚野に投射され,痛みの局在と強度(つまり,どこがどのくらい痛いか)を認識します。一方,C線維を介して視床の内側核に伝わったシグナルは内側系の前帯状回や島皮質に投射され,不快さ,不安感などの情動を引き起こします。

一般に,OAの関節痛はこのような侵害受容性(炎症性)疼痛が主と言われていますが,疼痛が持続すると痛みを伝えやすくなる(痛覚過敏),つまり感作がある2)など,その疼痛発生機序は複雑です。この感作が生じる原因の1つに,下行性疼痛抑制系の機能低下があります3)。脊髄後角には後角侵害受容ニューロンに対する抑制系が存在し,その中枢は中脳水道周囲灰白質にあります。この下行性疼痛抑制系が機能低下することで痛覚過敏や関連痛(膝OAであれば,大腿部痛)も形成することになります。

一方,OAによる慢性疼痛が脳に器質的・機能的変化を招来することも報告されています3)。また,慢性疼痛による諦め,いらだち,不安は,「自分は痛みに対して無力だ」などの痛みの破局的思考をももたらします4)。OAは日常生活動作(activities of daily living:ADL)障害がもたらす廃用症候群だけでなく,慢性疼痛による破局的思考の回避のためにも,早期の疼痛管理が重要であると考えます。

【文献】

1) Brodin E, et al:Nor Tannlegeforen Tid. 2016; 126:28-33.

2) Fingleton C, et al:Osteoarthritis Cartilage. 2015;23(7):1043-56.

3) Thakur M, et al:Nat Rev Rheumatol. 2014;10 (6):374-80.

4) Mao CP, et al:Front Aging Neurosci. 2016;8:3.

【回答者】

内尾祐司 島根大学医学部整形外科学教室教授

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