今回は腹痛について。よくみる症状であるが,非特異的腹痛(non-specific abdominal pain:NSAP)で自然消失することもある一方,高齢男性の腹部大動脈瘤破裂や若年女性の異所性妊娠など,重篤で緊急度の高い疾患のこともあるので,慎重な対応が望まれる。
腹痛については「急性腹症」(acute abdomen)という呼び方もある。この表現は,もともと外科的腹症(surgical abdomen)を意味した。しかし,以前は手術療法を必要とした疾患でも,最近では,内視鏡や血管カテーテル治療,内科的治療などでマネージされるようになったものも多い。そのため,「急性腹症」という呼び方はせず,すべての腹痛患者に重篤度と緊急度の高い疾患がある可能性を考えて対応するようお勧めする。では,今回の症例をみてみよう。
「すべての腹痛患者に重篤度と緊急度の高い疾患がある可能性を考えて対応する」と冒頭で述べた。ここでは腹痛の原因を現場でのリアルな状況に合わせて,治療を要する「緊急度」と「治療担当診療科」で分類し1),表1に示す。
若い女性の下腹部痛では異所性妊娠破裂(切迫破裂も含む)を常に考える。「妊娠の可能性はありますか?」という問診は信頼性が低い。この場合,筆者は「尿のホルモン検査をやりましょうね」と同意を得て,尿中hCG(human chorionic gonadotropin)検査を行う。
「イレウス」という用語は麻痺性イレウスに対してのみ使用するようにする。機械的な原因で起こる場合には,「腸閉塞」と呼ぶ。
原因不明の腹痛では必ず,糖尿病性ケトアシドーシス,副腎不全,甲状腺クリーゼ,急性間欠性ポルフィリン症などの代謝内分泌疾患や中毒(鉛)なども考える。過敏性腸症候群は,腹痛と便通異常を特徴とする機能性疾患である。ただし,この診断は可能性のある器質的な異常を除外することによってなされる。
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