【「何もしない倫理」から「予後とQOLを改善する積極治療の倫理」へのパラダイムシフト】
18番常染色体の全長あるいは一部の重複に基づく18トリソミー(エドワーズ症候群:出生頻度3500~8500人に1人)は,生命予後を左右する先天性心疾患〔心室中隔欠損(VSD)などの単純な病変が主体〕,肺高血圧,呼吸器系合併症(気管軟化,無呼吸発作等)を呈する症候群である。加えて,知的発達障害と様々な合併奇形,そして肝芽腫発生の危険があるため長期予後は望めないとされ,長い間積極的治療は「倫理上」行わない対象とされてきた1)。
近年では,この困難な状況を心臓手術で打破するわが国の試みが世界をリードしている。胎児診断に続く新生児管理と,タイミングを失しない心臓手術や消化器系手術のきめ細かな継続で,生命予後を改善するエビデンスが蓄積されている2)。
筆者らの連続21例(VSD閉鎖術20例,ファロー四徴症修復術1例)の心内修復術の経験では,2例が重症感染症で院内死亡したものの19例が退院し,遠隔死は1例(3年後に重症肺炎)で,累積生存率は8年で95%であった。周囲との意思疎通は不十分ながらも,患児が生き続けることが親と家族,そして医療関係者を前向きに変化させた事実を数多く目撃している。パラダイムシフトは既に起こったようである。
【文献】
1) 小児慢性特定疾病情報センター.
[https://www.shouman.jp/disease/details/ 13_01_012/]
2) Maeda J, et al:Am J Med Genet A. 2011;155A (11):2641-6.
【解説】
根本慎太郎 大阪医科大学外科学講座胸部外科学専門教授