かつて食物アレルギー(FA)治療の基本は厳格除去であったが,経口免疫療法の成績が報告されるようになり,それに伴って安全な範囲での積極的な摂取が推奨されるようになってきた
経口免疫療法に伴うアナフィラキシーのリスクや,摂取可能となった状態が一時的脱感作にすぎない場合も多いことなど,治療の限界も明らかとなってきた
患者を重症例と非重症例に層別化し,後者に対しては,食事指導の範疇で段階的に解除を進めていく具体的道筋が今求められている
筆者らは,除去例に対して少なくとも開始時点の経口負荷試験(OFC)に伴う誘発症状のリスクをできるだけ減らしつつ解除を実現するための実践的プロトコルを提案してきた
より多くの症例を対象にしてこのプロトコルを検討し,より信頼性の高いエビデンスとしていくとともに,重症例に対応する専門医療機関とその他の症例に対応する一般医療機関との役割分担を明確化していくことが今後望まれる
かつて,食物アレルギー(food allergy:FA)治療の基本は原因となる食物の厳格な除去であった。わが国において初めて作成された「食物アレルギー診療ガイドライン2005」(向山徳子,他,監修,協和企画)には,食事療法の基本として「原因食物を食べないこと(原因食物除去)である。特に,食物アレルギーの症状が激しい場合,原因食物除去以外に症状の出現を予防する確実な方法は存在せず,好むと好まざるとにかかわらず,食事内容から原因食物を除去せざるをえない」と記載されている。しかしながら,その後,症状を誘発しないレベルのごく少量から摂取を開始して計画的に摂取量を増量させ,積極的に耐性を誘導するといういわゆる経口免疫療法の成績が国内外で報告されるようになり,それに伴って,安全な範囲での積極的な摂取が推奨されるようになってきた。
同ガイドライン2012(宇理須厚雄,他,監修,協和企画)では,「食事療法として行う症状発現回避のための食品除去(アレルゲン除去食)の目的は,症状を起こさずに“食べること”であり,いつまでもアレルゲンの回避を続けることではない」と記載され,“必要最小限の除去”が強調されるようになった。同ガイドライン2016(海老澤元宏,他,監修,協和企画)でも基本的にこの考え方は踏襲されている。一方で,経口免疫療法に伴うアナフィラキシーのリスクや,摂取可能となった状態が,実は根本的治癒ではなく一時的脱感作にすぎない場合も多いことなど,その治療の限界も明らかとなり,治療手段としての位置づけはまだ確立していない1)2)。
同ガイドライン2012および2016では,経口免疫療法を食物アレルギーの一般診療として推奨していない。さらに同ガイドライン2016では,経口免疫療法を「自然の経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して,事前の食物経口負荷試験で症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ,閾値上昇または脱感作状態とした上で,究極的には耐性獲得をめざす治療法」( 線は筆者が追加)と定義した。すなわち,経口免疫療法は自然の耐性獲得が期待されない一部の重症例に対して誘発閾値を確認した上で適応するものとの考え方が示された。