(山梨県 T)
【高尿酸血症によるCKD進展抑制を目的とし,薬物治療を導入,尿酸生成抑制薬を慎重投与】
高尿酸血症は,性・年齢を問わず血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義されます。「尿酸産生過剰型」「尿酸排泄低下型」「混合型」に大別され,病型分類には尿中尿酸排泄量,尿酸クリアランスを用います。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版」1)では,「無症候性高尿酸血症への薬物治療の導入は,尿路結石を含む腎障害や血管障害のリスクと考えられる高血圧,虚血性心疾患,糖尿病,メタボリックシンドロームなどの合併症を有する場合は,血清尿酸値8.0mg/dL以上を一応の目安とするが,適応は慎重にすべきである」としています。腎障害合併例に関しては,「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」2)では,「高尿酸血症は,CKDの進展に影響を及ぼす可能性があり,CKD進展抑制を目的として高尿酸血症の治療を考慮してもよい」,また,「CKDステージG3b~5診療ガイドライン2015」3)では「CKDステージG3b~5の患者の腎機能の悪化抑制,死亡リスク抑制の観点から,無症候性であっても血清尿酸値が7.0mg/dLを超えたら生活指導,8.0mg/dL以上から薬物治療開始を推奨する。治療開始後は6.0mg/dL以下を維持することが望ましい」とされています。
尿酸降下薬の選択に関しては,基本原則は尿酸排泄低下型には尿酸排泄促進薬,尿酸産生過剰型には尿酸生成抑制薬を選択します。しかし,尿酸排泄促進薬は,腎機能低下例では効果が減弱することが知られています。そのため,中等度以上(eGFR 30mL/分/1.73m2未満,または血清Cr 2.0 mg/dL以上)の腎機能障害では尿酸生成抑制薬を選択し慎重に投与します。ただし,アロプリノールは,重篤な副作用を回避するために腎障害の程度に合わせた投与量の調整が必要となります。一方,フェブキソスタット,トピロキソスタットは,軽度から中等度の腎機能障害では減量が不要ですが,重度の腎機能障害では使用経験が少なく安全性が確立していないため,少量から慎重に投与することが望まれます。
本症例は,肝細胞癌が併存しており,悪性細胞の増殖,破壊による二次性尿酸産生過剰と,eGFR 20mL/分/1.73m2,CKDステージG4で腎機能低下による尿酸排泄低下の双方による混合型の可能性を考えます。血清尿酸値10mg/dLで8.0mg/dL以上ですので,高尿酸血症によるCKD進展抑制を目的として薬物治療の導入が推奨されます。ただし,肝細胞癌の進行度・病期などから無治療で緩和ケアの方針であれば,将来的な透析療法の導入も考慮されないと思いますので,高尿酸血症への薬物治療の必要性は低いと考えます。
また,91歳と高齢ですので,服薬アドヒアランスなどに問題がある場合も薬物治療の導入は困難と考えます。薬物治療の導入が可能な場合は,中等度以上の腎機能障害を認めるため,尿酸生成抑制薬を少量から慎重投与します。アロプリノールはCcr 30mL/分未満では50mg/日に減量の必要性があります。そのため,血清尿酸値6.0mg/dL以下の維持が困難な場合はこれ以上の増量が困難となります。一方でフェブキソスタット,トピロキソスタットは少量から慎重投与し,血清尿酸値の低下が不十分な場合は徐々に増量することが可能です。しかし,これらは主な代謝経路がグルクロン酸抱合であるため,本症例のような肝細胞癌を併存する症例には,肝機能障害の増悪がないかについても定期的な確認が必要と考えます。
【文献】
1) 日本痛風・核酸代謝学会, 編:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版. メディカルレビュー社, 2012.
2) 日本腎臓学会, 編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2013. 東京医学社, 2013.
3) 山縣邦弘, 他:CKDステージG3b~5診療ガイドライン 2015. 東京医学社, 2015.
【回答者】
芦村龍一 島根大学医学部附属病院腎臓内科
伊藤孝史 島根大学医学部附属病院腎臓内科診療教授