【わが国ではHIV感染症患者の70.3%が抗HIV薬での治療に成功しているが,HIV感染症診断率,治療率は世界的目標に届いていない】
世界ではHIV感染症流行の終結に向けて,2014年に国連合同エイズ計画とWHOが「90-90-90」という野心的な治療目標を立てた。これは,“treatment as prevention”の考えのもと,HIV感染者の診断率90%,診断者の治療率90%,治療者のウイルス抑制率90%を20年までに達成する,というものである。わが国におけるHIV有病率は比較的低く,流行の中心とされているハイリスク群の「男性と性行為を持つ男性」を対象とした疫学研究の結果が主に示されており,これまでケアカスケードは示されていなかったが,世界的な目標を達成するために,それを知る必要があった。
そこで,エイズ発生動向報告と,わが国において最も正確なデータのひとつと考えられる献血者データ,エイズ拠点病院へのアンケート調査結果をもとに推計された結果が報告された1)。それによると,15年末時点で生存中のHIV感染者数は2万6670人,そのうち14.4%の3830人が潜在的感染者であり,診断率は85.6%と推計された。また,治療率は82.8%,ウイルス抑制率は99.1%であり,総感染者数に対するウイルス抑制率は70.3%と推計され,世界的な目標には届いていないことが示された。16年の新規HIV感染報告数が1448人であり,06年以降ほぼ同数での流行が続いている。HIV流行を終結させるためには,診断率,治療率をさらに引き上げる対策が必要である。
【文献】
1) Iwamoto A, et al:PLoS One. 2017;12(3):e0174360.
【解説】
澤田暁宏*1,大谷成人*2,島 正之*3 *1兵庫医科大学血液内科学内講師 *2兵庫医科大学公衆衛生学講師 *3兵庫医科大学公衆衛生学教授