(東京都 F)
【入眠の4〜5時間前に同時服用してもらう】
高齢者では,睡眠構築の変化から不眠を感じやすく,睡眠薬を希望する人も多くなります。処方に際しては,内服が長期になった際のリスク(耐性や常用量依存,認知機能障害など)や1回の内服でも起こりうるリスク(転倒やせん妄の発症など)を念頭に置く必要があります。
これらを考慮した場合,ベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系:BZP受容体作動薬)ではなく,新規の睡眠薬を選択することは有利に働く可能性があります。特にラメルテオンやスボレキサントでは耐性が生じにくく,長期に使用しても効果は持続しやすいことや,せん妄発症の予防効果1)2),筋弛緩作用や平衡感覚への影響も少ないこと3)などが報告されています。
しかしながら,転倒については,睡眠薬の内服自体より,不眠の存在が問題であるとの報告もあります4)。この点を考えてのご質問かもしれません。
まず,各薬剤の特徴を簡単に整理してみたいと思います。
メラトニン受容体のMT1(直接的な催眠作用)とMT2(体内時計)に対して作用します。また,主にMT1は高用量で,MT2は低用量で作用します。添付文書の用量は直接的な催眠作用として設定されていますので,まずは就眠前に2週間ぐらい服用して効果を評価してもらうことになるかと思います。
その上で,効果がなければ,適応外の用量となりますが,MT2への効果を期待して,1/4~1/2Tに減量する方法があります。この際にポイントとなるのが服用時刻で,メラトニン分泌開始時刻(dim light melatonin onset:DLMO)が重要な指標となります。このDLMOは普段の入眠時刻の2~3時間前にあり,低用量のメラトニンの場合にはDLMOの2~3時間前の服用で最も効果が期待できるため5),一般的には普段の入眠時刻の4~5時間前の服用が勧められます(たとえば,2時に入眠する人では21~22時の服用)。
インタビューフォームによると,一般的に最高血中濃度到達時間(Tmax)は,空腹時で平均1.5時間(1~3時間)と比較的早いので,個人差を考慮しても就寝1~2時間前には服用したほうがよい効果があると考えられます。また,食後に服用すると,Tmaxが3時間(1~6時間)と延長しますので,食後に内服することは避けるように指導することが必要です。
以上から考えると,22時の入眠を目標にするのであれば,ラメルテオン,スボレキサントともに20~21時くらいに内服してもらい,2週間後を目途に評価を行い,効果が不十分であればラメルテオンを低用量として18時頃の内服に変更してみるのがよいかもしれません。
ただ,実際は個人差も大きいこと,両薬剤とも入眠作用としては弱いので,併用しても従来のBZP受容体作動薬ほどの効果を期待することはできない可能性があること,今のところ併用の適切な方法などについての臨床研究はなされていないことから,あくまで参考として頂ければ幸いです。
【文献】
1) Hatta K, et al:JAMA Psychiatry. 2014;71(4): 397-403.
2) Hatta K, et al:J Clin Psychiatry. 2017;78(8): e970-9.
3) Zammit G, et al:J Clin Sleep Med. 2009;5(1): 34-40.
4) Avidan AY, et al:J Am Geriatr Soc. 2005;53(6): 955-62.
5) Eastman CI, et al:Sleep Med Clin. 2009;4(2): 241-55.
【回答者】
谷向 仁 京都大学医学部附属病院緩和ケアセンター/緩和医療科/京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻准教授
谷口充孝 大阪回生病院睡眠医療センター部長