(兵庫県 Y)
【既に長期化していても,発症初期の炎症期への対応から開始する】
肩関節周囲炎は肩関節構造の破綻があるわけではなく,ご指摘の通り確たる原因が明らかでないことが多い疾患です。発症原因は不明ですが,関節包や関節唇,滑液包などの関節組織の炎症が痛みの原因であり,発症後は炎症が増悪しやすいために強い夜間痛や安静時痛につながると考えられます。しかし一方で,炎症増強後は一定の期間が経過すると寛解することの多い疾患でもあります。したがって,発症初期の炎症が極力長期化しないように対処することが治療のポイントとなります。
発症初期の炎症期には注射療法や薬物療法による疼痛軽減が主体となり,肩関節運動は疼痛の生じない範囲にとどめることが勧められます。理学療法では他動運動は最低限にし,自動運動を中心に行います。夜間痛に対しては,痛みの少ない肩関節肢位にポジショニング(図1)を行うことで軽減を図ります。この時期に痛みを誘発する動作を繰り返してしまったり,積極的にストレッチングを行ってしまうと疼痛が増強し,長期化する恐れがあるので運動強度の管理が重要です。
時間の経過とともに炎症が徐々に軽減していくと,次は拘縮が主体となる拘縮期に移行していきます。移行したかどうかは夜間痛の程度が1つの判断基準になります。夜間痛が強いときは夜中に痛みで何度も目を覚ましますが,軽減してくると起床時にのみ痛みを感じるようになったり,患側を下にして寝たときにだけ痛みが生じるようになってきます。このように夜間痛の軽減がみられたら拘縮期への移行が始まったと判断し,徐々にストレッチングを開始します。ストレッチングの強さは,施行中に痛みが生じても施行後に痛みが消失する程度にとどめます。
肩関節周囲炎は寛解するまで1~2年かかるとも言われています。長期化を防ぐためにはどのような時期かを慎重に見きわめ,症状に合わせた対処を行っていくこと,患者が早く良くしようと焦らないようにサポートすることが必要です。また,既に長期化している症例が来院した際には,経過が長くても疼痛が軽減せず,強く生じ続けていることが多くあります。その場合は,発症から長期間過ぎていても,炎症期の対応から開始することが快方に向かわせるための第一歩と言えます。
【回答者】
村木孝行 東北大学病院リハビリテーション部 主任理学療法士