(岐阜県 K)
【喫煙,片頭痛,妊娠・産褥期,避妊薬,違法薬物など】
45歳以下の若年性脳梗塞は,全脳梗塞発症数の4.2%ほどですが,中高年とは異なるリスク因子を有します。
①喫煙
喫煙は若年でもリスクを2.6倍にするとの報告があります。
②片頭痛
前兆のある片頭痛ではリスクが2倍になるとメタ解析で報告されています。発作時の低灌流,脳動脈解離や卵円孔開存との関連が示唆されます。治療薬のトリプタン系薬は血管収縮をきたします。
③妊娠・産褥期
妊娠中,産褥期には血液の過凝固状態や血管反応性の変化が影響します。
④避妊薬
エストロゲンはリスクを2~4倍に増加させますが,プロゲステロンは高めません。
⑤違法薬物
交感神経を刺激し血圧上昇をきたし,血小板を活性化し,血管炎をきたします。
若年性脳梗塞の直接の原因として頻度が高いものは,脳動脈解離,もやもや病,抗リン脂質抗体症候群の3疾患が原因の大部分を占め,中高年に向かっては,アテローム血栓症,心原性塞栓症,ラクナ梗塞が増加します。
①脳動脈解離
アジア人においては椎骨脳底動脈の解離が多く,白人においては頭蓋外内頸動脈の解離が多くみられます。頸部の捻転,外傷が契機となります。解離の進行に伴い頸部痛を生じますが,外傷,頸部痛から虚血症状をきたすまで数日から数週間かかることもあります。
②もやもや病
発症年齢は二峰性であり,若年においては一過性脳虚血発作や脳梗塞など虚血症状で発症し,中年においては脳出血での発症が多くなります。家族性の場合,原因遺伝子としてRNF213が同定されています。
③卵円孔開存(patent foramen ovale:PFO)
一般人口でも25%に認めますが,左右シャントから奇異性塞栓症をきたすリスクが若年で高くなります。下肢深部静脈血栓症が塞栓源です。
④感染症
梅毒,結核,ボレリア,水痘帯状疱疹ウイルスなどが髄膜血管炎をきたします。
⑤血管炎,膠原病
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE),抗リン脂質抗体症候群,高安動脈炎などでは脳梗塞を合併しやすく,好酸球性肉芽腫性多発血管炎(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA),ウェゲナー(Wegener)肉芽腫症,多発血管炎,クリオグロブリン血症,ベーチェット(Behçet)病,サルコイドーシスなどでも血管炎から脳梗塞となります。
⑥非感染性血管疾患
放射線治療後の血管炎,線維筋性形成異常などがあります。
⑦血液学的疾患
播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC),血管内リンパ腫,血小板増多症,真性赤血球増多症などがあります。
⑧単一遺伝子疾患
常染色体優性遺伝性脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy:CADASIL),常染色体劣性遺伝性脳動脈症(cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy:CARASIL),ファブリー(Fabry)病などがあります。
このように若年性脳梗塞には,生活習慣病とは異なる特異な原因が隠れているため,諦めずに原因を検索する必要があります。
【回答者】
伊藤義彰 大阪市立大学大学院医学研究科神経内科学 教授