(静岡県 K)
【年齢階級別の健康な人の割合データを用いるサリバン法を用いるのが標準である】
まず,平均寿命は,生命表を用いて計算されます。これは,仮想的に10万人生まれたとして,ある年の年齢別死亡率のデータを用いて,1歳までに生き残る人数,2歳までに生き残る人数……と,すべての人が死亡するまでを順次計算します。これを定常人口と言い,その合計は命の総量と考えることができます。それを最初の10万人で割り算すると,平均の命の長さが何年であるか,すなわち平均寿命を計算することができます。
次に,健康寿命ですが,年齢階級別の健康な人の割合のデータを用いて,年齢階級別の定常人口にかけ算して,健康な人の定常人口を計算します。その合計を10万人で割り算した年数が健康寿命となります。この方法をサリバン法と言います。健康寿命の計算には,その他に多相生命表を用いる方法などいくつかの方法がありますが,地域別の健康寿命を計算するときにはこの方法が標準的に用いられています。
ここで問題になるのが,「健康な人の割合」としてどのようなデータを用いるかです。ご質問の健康寿命の数値は,「健康日本21(第二次)」で採用されているものです。これは,厚生労働省国民生活基礎調査により,全国から無作為抽出された国民を対象に,「あなたは現在,健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」と尋ねて,「ある」と回答した人は不健康,「ない」と回答した人は健康とみなして計算したものです。この方法で計算した健康寿命を「日常生活に制限のない期間の平均」と言います。
欧州および米国においても,質問文は若干異なりますが,おおむね同様の方法で健康寿命が計算されていることもあり,この計算方法が採用されています。欧州では,このように計算された健康寿命をhealthy life yearsと呼んでいます。米国では,average(expected)years of healthy lifeやhealthy life expectancyなどの表現が用いられています。
ところで,ご承知の通り,「健康」とは幅広い概念であり,「健康な人の割合」の計算方法として種々の代替案が考えられます。「健康日本21(第二次)」では,上記の方法のほかに,「自分が健康であると自覚している期間の平均」も副指標として記載されています。これは,国民生活基礎調査において「あなたの現在の健康状態はいかがですか」と尋ねて,「よい」「まあよい」「普通」と回答した人を健康,「あまりよくない」「よくない」と回答した人を不健康とみなして計算するものです。
その他,全国の市町村でも健康寿命を計算したいというニーズがあり,国民生活基礎調査は対象者の抽出数の関係で市町村単位での利用が困難であるため,介護保険データを活用した計算が行われています。その場合は,要介護2~5の要介護認定を受けている人を「不健康」,そうでない人を「健康」とみなして計算するのが一般的です。この方法による健康寿命は,「日常生活動作が自立している期間の平均」または「平均自立期間」と呼ばれます。この計算方法は,2007年に厚生労働省から出された都道府県健康増進計画改定ガイドラインで参酌標準として示されています。
健康寿命について,「寝たきりにならずに健康でいられる期間」と解説してある記事をみかけることがよくありますが,その場合にはこの「日常生活動作が自立している期間の平均」が近いと考えられます。なお,2016年の全国での「自分が健康であると自覚している期間の平均」は男性72.31年,女性75.58年です。また,「日常生活動作が自立している期間の平均」は男性79.47年,女性83.84年です。
健康は多面的な概念であることから,このように種々の指標でみていくことが本来のあるべき形であると考えられます。一方で,一般国民にとって,たくさんの指標があることはわかりにくいため,国が定期的に実施している調査のデータに基づいて,シンプルでコンセンサスが得られやすい指標を標準的に用いているということになります。
【参考】
▶ 尾島俊之:心臓. 2015;47(1):4-8.
▶ 健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究班:健康寿命の算定方法の指針(平成24年9月). 2012.
[http://toukei.umin.jp/kenkoujyumyou/syuyou/kenkoujyumyou_shishin.pdf]
▶ eurostat(欧州統計局):Healthy life years statistics.
[http://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php/Healthy_life_years_statistics]
【回答者】
尾島俊之 浜松医科大学医学部健康社会医学講座教授