総検案・解剖数は1万7000件以上。司法解剖だけで約3400件。その実績には裁判官も目を丸くする。大阪府警の嘱託を受けた監察医では最古参。自殺サイト連続殺人事件(2005年)、青酸化合物連続不審死事件(2012~15年)など、社会を震撼させた事件の捜査にも協力してきた。
火葬文化の日本では、解剖は常に一発勝負。検案のやり残しは犯罪死の見逃しにつながりかねない。「使えるものは何でもすぐ取り入れる」という巽さん。Ai(死亡時画像診断)用のマルチスライスCTは法医学教室が単独実施できる形で導入。ゲノム定量解析システムも法医学分野に国内初導入し、DNA鑑定の精度を大幅に向上させた。
犯罪死の死因究明だけでなく、遺族が突然の死を受容する過程にも向き合う。仮性クループで死亡した男児の父親が「誰のせいで息子は死んだんや」と号泣しながら訴えてきた際には、病変で狭窄した喉頭などの検査画像を示し、「神様に呼ばれたんや」と、父親の気持ちの整理がつくまで説明した。
「人一人の死を調べ尽くすからこそ死について真摯な説明ができる。裁判官の前でも遺族の前でも、法医は人の死の説明の最終責任者です」
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