(山口県 M)
【苦痛緩和には効果的だが,体温を下げることまでは期待できない】
冷却ジェルシートを貼付しても,体温を下げる(解熱する)効果はありません。
冷却ジェルシートによる冷却の原理は,ジェルに含まれている水分が蒸発することによる「気化熱」により貼付部の温度が局所的に下がるというものです。簡単に言えば,打ち水と同じ原理です。製品により,「皮膚の温度を2℃冷やし続ける」と謳われているものもあります1)。
しかし,これは貼付部の局所的な温度であり,体温ではありません。冷却ジェルシートに含有されている水分量から,高熱の体温が解熱するほどの気化熱が発生することは考えられません。つまり,冷却ジェルシートを貼付しても体温を下げるまでの効果は期待できず,ご質問のような解熱目的では効果は得られないと考えます。
ご質問のような腋窩や鼠径部の深部血管を外部から冷却するクーリングについて,その効果はなく,核心温は下がらないとの研究報告もあります2)3)。ここでのポイントは,「解熱」の解釈の違いです。
一般的に「解熱」という用語は,「解熱剤」や「解熱した」などのように「異常な高体温が正常の体温に低下する」という意味で使用されています。つまり,冷却ジェルシートの「局所的に温度が2℃下がる」という効果を,異常な高体温が正常体温に改善する「解熱効果」と勘違いされ,冷却ジェルシートを貼れば平熱に下がるとの誤解が生じていると考えます。
体温は,脳下垂体視床下部にある体温調節中枢(セットポイント)にてネガティブフィードバックにより調節されています。感染などにより免疫系が活性化されると,プロスタグランジンE2の働きによりセットポイントが変更され深部体温を上昇させます。体温を下げる「解熱」作用のある薬剤は,このセットポイントに働きかけるプロスタグランジンE2の生成を抑制することで体温を正常に戻します。
しかし,冷却ジェルシートには,プロスタグランジンE2の生成抑制など,体温調節中枢に作用するような薬剤は含有されていません。つまり,外部から冷却ジェルシートを貼付しても,セットポイントを変える作用はないため,解熱できないことがわかります。最近では,腋窩や鼠径部などを氷囊で冷やすクーリングは,解熱に関するエビデンスがないとの研究も複数報告されています(鎮静下に実施する脳低体温療法および熱射病などのうつ熱を除く)4)。
冷却ジェルシートは「貼付することで局所の冷感が気持ち良い」と感じる場合は使用してよいと考えます。冷却ジェルシートやクーリングにより「気持ちが良い」と感じることにより副交感神経が優位になり,苦痛の緩和につながる効果があると思います。つまり,冷却ジェルシートは体温を下げる目的ではなく,局所の冷却による苦痛緩和目的にて使用することが効果的であると考えます。
【文献】
1) 小林製薬株式会社:熱さまシート製品情報.
[https://www.kobayashi.co.jp/seihin/k_nss/index.html](最終閲覧2019年3月15日)
2) 増田由美:日本看護技術学会第2回学術集会抄録集, 2003, p51.
3) 尾上玲子, 他:日本看護技術学会第2回学術集会抄録集, 2003, p51.
4) 工藤由紀子, 他:日看技会誌. 2013;12(2):64-71.
【回答者】
勝 博史 東京都立小児総合医療センター看護担当科長/集中ケア認定看護師