厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は3月28日、適用される医師の時間外労働規制の枠組み(表)を盛り込んだ報告書案を了承した。一般勤務医では、36協定でも超えられない上限を「年960時間」と設定。地域医療維持の観点から設ける暫定特例の上限は「年1860時間」で決着した。医療界は労務管理の適正化と医師の長時間労働の是正に総力を挙げて取り組むことになる。
4月施行の改正労働基準法により、一般労働者では時間外労働上限が休日労働込みでも「年960時間」に規制され、違反した使用者には罰則が科される。医師については上限規制の適用が2024年4月まで猶予されている。
報告書案では、勤務医も一般労働者と同等の働き方を目指す視点から、上限を「年960時間」(A水準)と設定。各医療機関には今後5年間で過重労働解消に向けた徹底的な業務改革が求められ、労働時間短縮計画を作成して労働時間管理の適正化やタスクシフティングなどを進めることになる。厚労省は規制適用までに全ての勤務医がA水準に収まる状況を目指すとしている。
一方、医師不足地域の救急医療機関などではA水準の達成が困難な場合が考えられることから、地域医療を確保するための暫定特例を設け、「年1860時間」(B水準)まで認める。短期間に集中的な技能向上を必要とする研修医などの上限(C水準)も「年1860時間」とする。
ただし、B・C水準の適用に当たっては、都道府県が労働時間短縮の取り組み状況や地域で担っている医療機能などを踏まえ、医療機関を特定する必要がある。適用医療機関では、連続勤務時間制限、勤務間インターバルの確保の徹底が求められる。緊急手術等で守れなかった場合、翌月末までに代償休息を付与しなければならない。勤務が月上限(100時間)を超える場合には医師による面接指導を行い、睡眠負債や疲労の蓄積を確認する。厚労省はこれらの追加的健康確保措置を医事法制上で義務づけ、未実施の場合にはB・C水準の適用を外す方針だ。
年1860時間という暫定特例水準は月平均155時間に相当し、過労死の労災認定基準を大きく上回る。このため報告書案では、反対意見があったことに言及。暫定特例の終了年限について、医師偏在対策の実施状況をにらみつつ「35年度末」での廃止に向けた検討を行う旨を、労基法施行規則に明記するとした。24年4月以降、医療計画の見直しサイクル(3年ごと)に合わせて、上限の段階的な見直しを検討する方向性も示している。
1年8カ月にわたる議論の締め括りに、岩村正彦座長(東大大学院法学政治学研究科教授)は「報告書に書かれた提案を、停滞することも後戻りすることもなく、強い決意を持って着実に進めることが大事だ」と挨拶した。
厚労省は検討会の議論を踏まえ、労働時間管理における宿日直や研鑽の取扱いに関して、現代の医療水準に合わせて見直した基準を近日中に通達する方針。一方、勤務医のアルバイト(兼業)の労働時間管理上の取扱いについては、「改めて検討する」としている。