(千葉県 K)
【正確な結論を得るには,各ワクチンを用いた比較試験が必要】
現在,わが国で製造販売される季節性インフルエンザワクチンは「インフルエンザHAワクチン」のみですが,欧米では異なる製剤もあります。具体的には,より高い免疫原性を期待する高用量ワクチン,アジュバント添加ワクチン,全粒子ウイルスワクチン,異なる接種経路での免疫効果を期待する経鼻投与ワクチン,皮内接種ワクチンなどです。また,純度の高い抗原を用いる遺伝子組換えワクチン,鶏卵培養によるウイルス馴化を払拭する目的の細胞培養ワクチンもあります。
接種方法についても差違があり,欧米では筋肉内注射ですが,わが国では皮下注射です。筋肉内注射と皮下注射の免疫原性を比較した複数の研究があり,同等あるいは筋肉内注射のほうが免疫原性に優ると報告されておりますが,ワクチン株の種類や被接種者の特性も影響するため,研究報告によって結果は様々です。発赤や腫脹など,体表面から観察される局所副反応は,筋肉内注射のほうが少ないとされます。
わが国の「HAワクチン」と欧米の「splitワクチン」は,有効成分や抗原量が同等のワクチンですが,小児の接種方法に差違があります。わが国では「12歳までは2~4週間の間隔をおいて2回。13歳以上は1回または2回」,米国は「8歳までは4週間以上の間隔を空けて2回,9歳以上は1回。ただし8歳までの小児でも過去に2回以上の接種歴があれば1回の接種で可」1)とされています。これについては第4891号の本欄(2018年1月20日)2)でも解説していますが,確実な予防のために年齢をどこで区切るべきかについての日米の判断の相対的な差違によるものです。
まとめると,わが国と欧米のインフルエンザワクチンでは,成分の異なる製剤がありますが,それぞれの臨床試験の結果に基づいて接種法が定められています。欧米のsplitワクチンとわが国のHAワクチンは成分が同等の製剤ですが,接種方法や小児での接種回数について差違があります。わが国のワクチンを欧米の方法で接種して同等の効果が得られるかどうかについては,比較試験を行って解析しないと的確な結論は得られないと考えます。
【文献】
1) Grohskopf LA, et al:MMWR Recomm Rep. 2017; 66(2):1-20.
2) 中野貴司:医事新報. 2018;4891:59-60.
【回答者】
中野貴司 川崎医科大学小児科学教授