(新潟県 H)
【閉鎖的環境というよりはストレスが主因であり,入院中であっても病棟の環境や処遇を見直すことで,軽減することができる】
今回のお話を受けて,私も10年ほど前に似たような話を聞いたことを思い出しました。北欧に視察にいった人が,どこかの施設で「ここには水中毒の人はいますか?」と聞いたところ,「そんな人はいない」と言われて驚いた,というような内容であったと思います。
気になったので,海外での多飲症や水中毒についての疫学研究をいくつか見直しましたが,地域差に言及した文献はありませんでした。また,Pub Medで“water intoxication”“schizophrenia”と“psychogenic polydipsia”の用語を用いた検索も行ってみました。どちらも200前後ヒットし,ファースト・オーサーが在籍している医療機関の所在地をざっと調べたところ,米国やドイツなどに混じってフィンランド,スウェーデン,デンマークなど北欧諸国の文献もいくつかありました。
さて,統合失調症で長期入院している人では20%前後で認められるとされている多飲症ですが,外来通院中の人でも15%ほどが該当するという報告1)や,未治療の人が発症したという報告もあります。
ご指摘の通り,多飲症の発現や水中毒への発展の原因は人それぞれですが,「ストレス」が大きく関係していることは明らかです。入院中の人で言えば,病棟の環境や処遇は大きなストレスになりうるものです。
つまり,「閉鎖的」な環境でも無用な行動制限を見直したり,不要な薬物を減らしたりすること,日中の活動範囲を拡げ,従事できる作業の種類を増やすなどの取り組みで「開放的」な環境にすることは十分可能で,実際にそういう取り組みの結果,多飲行動が目立たなくなったという報告はたくさんあります。
【文献】
1) Iftene F, et al:Psychiatry Res. 2013;210(3):679- 83.
【回答者】
川上宏人 慈雲堂病院精神科副部長