2型糖尿病に加え肥満症の治療にもGLP-1受容体作動薬(GLP-1-RA)が用いられるようになり、注目されるようになったのがメンタルへの影響である。しかし従来の研究からは、自殺念慮/企図のリスク「上昇」「不変(下がる)」のいずれもが報告されている。中山医学大学(台湾)のEdy Kornelius氏らはそれらの研究には方法論に伴う一定の限界があると考え、それらを克服すべくあらためて大規模解析を実施したところ、GLP-1-RA使用に伴う精神面への有意な悪影響が観察された。10月18日、Scientific Reports誌で報告した。
解析対象の母体は、米国在住で「肥満」と診断され、かつ減量薬の使用歴のなかった926万5469例である。ただし評価開始1年前から1カ月後の間に双極性障害や統合失調症、うつ病性障害、不安症、自殺念慮/企図の診断歴があった例は除外されている。米国民間データベース(電子カルテデータや診療報酬明細などを統合)から抜き出した。
これら926万5469例中、GLP-1-RA「使用」16万2257例と「非使用」910万3212例から、傾向スコアで背景因子をマッチできた各群16万2253例を抽出し、「精神系イベント」初発リスクを比較した。精神系イベントの内訳は「大うつ病性障害」「不安症」「自殺念慮/企図・自傷」である。「大うつ病性障害」や「不安症」は「自殺念慮/企図」高リスクであるため(代替評価項目として)評価項目に加えられた。追跡期間は最長5年間。これまでの報告よりもより多数/多様な集団を、より長期に評価したものになるという。
・背景因子
平均年齢は52歳、女性が56%を占めた。また50%は2型糖尿病を合併していた。
・精神系イベント(1次評価項目)
GLP-1-RA「使用」群では「非使用」群に比べ、追跡開始6カ月後の時点で「精神系イベント」発生率は高値となっていた(9.4 vs. 4.8%[検定なし])。この傾向は5年後まで続き、5年間の「使用」群における「精神系イベント」ハザード比(HR)は、1.98(95%CI:1.94-2.01)の有意高値となった(発生率:39.6 vs. 23.4%)。
「精神系イベント」を個々に比較しても同様だった。すなわち5年間を通した発生リスクは、「大うつ病性障害」(HR:2.95、95%CI:2.82-3.08)、「不安症」(同:2.08、2.04-2.12)、「自殺念慮/企図・自傷」(同:2.06、1.92-2.21)のいずれも、GLP-1-RA「使用」群で「非使用」群に比べ有意に高かった。
なおGLP-1-RA間にも「精神系イベント」リスクの差が見られた。すなわち、ウゴービ使用に伴う対「非使用」群HR(2.14)は他剤よりも有意に高値だった。
本解析とは対照的に、GLP-1-RAは精神状態を悪化させないとする観察研究も複数存在する[Tsai WH, et al. 2022、McIntyre RS, et al. 2024、Wang W, et al. 2024]。Kornelius氏らはしかし、それらの研究の限界として「比較開始時の精神系疾患既往のバランスが取れていない」「自殺念慮だけを評価項目とすると予備群を見落とす」などの点を指摘する(本研究でもGLP-1-RA「使用」群において「自殺念慮/企図・自傷」リスクの上昇を認めたのは追跡開始から1年経過後からと指摘)。
なお同氏らは、GLP-1-RA使用と「精神系イベント」リスク増加の間に、因果関係があると推察している。
本研究は中山医学大学病院から資金提供を受けた。開示すべきCOIはないとのことである。